星輝く空



13




セイはいつもより遅く帰ってきた。
と、言っても…家の前で小鳥たちにパンくずをあげていただけだけど…。
いつもよりも時間がかかって帰ってきた。こんなこと今までなかった。
なんだろう……。
妙に気まずい………。
「おかえり、セイ…。あっ……あのっ…小鳥さんたち…元気だった…?」



いつもは訊かないことを訊いてしまう。
どう考えても不自然だ。
僕は窓辺に立って外を見ながらしゃべっている。
後ろに立っているセイの姿はもちろん見えない。
セイは何も言わなかった。
どんなに忙しくても必ず答えてくれるセイが何も言わなかった。
どうしたのだろうか…?
不審に思ってちらりと見れば、セイは空(くう)を睨んでいるだけだった。
話しかけたことさえ気づいていないのかもしれない…。
セイの瞳は何も映してない。
そう思った。
胸の奥がきゅっとする。



かなしい。





そんな言葉が思い浮かぶ。
しぼられるような……そんな…心の、苦。
両腕で自分を抱くようにしてもおさまらない。みたされない。
かなしい――――。





目の辺りがあつい。
頬を滴が伝い落ちる。



それでも、僕はセイから目を離さない。
ちがう、離れない。離したくない。
セイをずっと見ていたかった。
このままセイが僕を見なくても…。
僕が見ていることが許されるなら――――。









つぎつぎと流れ落ちていく透明なしずく。
視界がぼやけても、脚から力が抜けて座り込んでしまっても…僕は見つめ続けた。







どのくらい時間がたったのだろう……?



ほんのわずかのようでもあるし、果てしなく長い時間だったような気もした。





鼻が触れそうなほど近くにセイの顔があった。
心配で心配でたまらないというような……少し青ざめた顔。
なぜ、セイの顔が……?
僕は床からセイを見上げていたはずなのに…。
不思議なこともあるもんだなぁ、と首を傾げるとセイの青ざめた顔がぱっと明るくなる。そして、涙が溢れてきた。セイの頬を濡らす宝石。



「………すばる。」
掠れた小さな声。けれど、とても美しい声が僕を呼ぶ。
きれいな宝石が輝いている。



セイが…僕を見ている……。



それだけで、とてもうれしくなる。とても心が温かくなる。
やさしい響きの声が再び僕を呼ぶ。
僕は微笑んで返事をする。



「セイ?…僕はここにいるよ…?どうしたの?」



ああ、これは――――。







「…っすばる!!」








僕はセイに抱きしめられた。
あたたかい腕の中。
セイのにおいが僕を包む。
やさしいかおり。やさしい声。
そして、心臓のおと。
どきどき、といつもよりとってもはやい。
僕の穏やかに動いていた心臓も共鳴するようにはやくなる。
セイが僕を呼ぶ。
僕がセイを呼ぶ。





うれしくて泣いてしまう。



ぎゅっと抱きしめられながら僕は感じた。











これは、きっとそう。



僕は…セイに心ひかれているのかもしれない。


















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リンク切れしてました…。すみません;

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