星輝く空



17






あ。
そういえば…。
セイが、会って間もなく…こう言っていたんだ。
「すばる…あのね、あまり言いたくなかったんだけど…もしかしたら、ということも無いとは言い切れないから言っておくね。 なるべく外に出ないでほしい。あと、俺以外の人間には会わないようにしてほしい。別に、すばるを閉じ込めたいとか…そういう訳じゃないんだ。 ただ……この国ではすばるみたいな髪の色の人は目立ちすぎる。色々言われるだけならまだしも…可能性としては、 最悪の事態にならないとも限らない。………心配なんだ。お願いだ、すばる……約束してくれないか…?」
そう言った。
最悪の事態…それは、僕が殺されてしまうこと。
セイが一番気にしていること。
この国では…髪の色は暗い色が一般的で、むしろ明るい髪の毛の人はこの国のやつじゃないと蔑まれたり、売買されている…らしい。
僕は知らなかった。
もちろん、今まで人間として生活してなかったからなのもあるけれど…本当に…セイは僕を家からあまり出さなかったからでもある。
僕はここに来て家から遠く離れたのは森に行ったときだけ。
家とその周辺のちいさな世界しか僕は知らない。けど、それでもいいと思った。セイがいてくれればそれだけでよかった。 僕が外に出て心配をかけるぐらいなら外に行かなくてもよかった。





それが…



こんなところで、セイとの約束を破ってしまうなんて…。







ごめんなさい…。











あたたかな手を感じて目を開ける。
ぼんやりとした視界に映るのはセイ……じゃなくて、くろのかみさま。
すごく表情がかたい。
じっとみつめているうちにさきほどのことを思い出した。
セイじゃない三人の男たち。隊長と呼ばれてた男。激しい痛み。冷たい瞳。きらきら光る剣。そして、あのときの恐怖。
雨…黒い影が―――――





「―――――っ!!!!!!」










あ、あああぁぁぁっぁぁぁ!
うわあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!
たすけっ、たすけてたすけてたすけて…おねがい、たすけて!
いたい、いたくしないで、いたい、いたい…。
いやっ―――――たすけて、だれかああああ!!!






あああああぁ!!!!

















「………大丈夫だ…大丈夫……大丈夫だから…。」

気がつくと、黒の神様の腕の中で震えていた。
指先がつめたい。こわい。



「…大丈夫。……ほら、もう大丈夫…。」



僕の背中を軽くたたく手がリズムを刻む。
あたたかい、心地よいリズム。黒の神様の声。
僕を包んでくれるあったかい腕は少しずつ恐怖を取り去ってくれた。
少しずつ、ゆっくり、確実に。






指先もあたたかくなって、震えも止まったころ黒の神様は言った。










「すばる、もう、大丈夫、なんだよ。わかる?もう、痛くない、もう、怖くない。ほら…大丈夫でしょ?」





「くろのかみさま……………。」





「そうだよ、すばる。もう大丈夫だからね。そろそろセイも帰ってくる頃だよ。」



ゆっくりと首を動かして窓を見るとすっかり晴れた空が茜色に染まっている。
窓から―――?
男たちが…?





「―――――――っぁ!!!!」


こわくて黒の神様にしがみつく。
必死に離れないように黒の神様の服を握りしめて。
手に力が入りすぎているのか、単に震えているだけなのか…わからないぐらいぶるぶる震えて、ただしがみつく。
こわかった。また痛い目にあうんじゃないかと思ったらすごくこわかった。






「すばる………。」



黒の神様の表情が曇る。
それにびくついてしまう。



「はあぁー。……すばる、よくお聞き、いいね?」





黒の神様の表情を上目づかいにうかがいながら僕は小さく頷いた。



「えっとねぇ…何から…そう、すばる……さっきの怪我、かなり酷かったんだよ。 気づくのが遅かったら今頃大変なことになっていたところだったよ。それで……まあ、私からのサービスということで、 怪我治しておいたから。だから、もう痛くないよ。肉体の方は、ね……。」



にくたいのほうは…?



「そう、そういうこと。それと、とりあえず…セイから聞いていたと思うけど……すばるはなるべく外に出ない事。 あと、これ以上第三者に接触することも駄目。」



だいさんしゃ……。



「あと、すばるが大怪我してたことはセイには言わない方が良いね。説明が面倒になるし…思わず言っちゃたりしないでよ? ……と、あの男たちのことなんだけど………彼らは、何と言うかな…自警団…なんだそうだ。しかしね、ほら、頭の固い奴らでね… 正統なるもの、純潔なるもの、正しいものを守るのが彼らの仕事…とは聞こえがいいけど…ただの…異端者を作り出して、 正義の名のもとに虐殺しているだけの奴らなんだ。」



ぎゃくさつ?



「ああ。正しく虐殺だよ。自分の理想を……って語ってもなんだな。その自警団が君の情報を手に入れた。 それで君が狙われた。……すまない。この髪の色が此処じゃあ目立って良くないことを私は知っていたのにね… こんな見事な金色…なんで彼らはこの美しさがわかんないかなぁ…。…じゃなくて、髪、染めようか?すばるが良いと言うならば、だけど。 今回のこともあったし…すばるがこれ以上危険に晒されるなら――――」





「だめぇ!!!!」






黒の神様は驚いて動きを止める。
黒の神様の見開いた目に泣きそうな僕が映っていた。





でも、ほんとにいやなんだ…。
染めるなんて…。
嫌、嫌だ!
セイが褒めてくれたんだ!!
この髪の毛の色……きれいだって…言ってくれたんだ…。
たしかに、今回のことは…っ、金色の髪のせいだったけど…でも、でも!それでも嫌!
嫌、なんだぁぁぁ……。



「いやぁ…うぅ……えぐっ…いやあ…。」



「おぉぉ?……嫌、なのはわかったけど…泣いちゃう?」



黒の神様はやさしく僕の頭を撫でてくれた。
僕は大粒の涙を零す。



「そうか…わかったよ。髪の色はそのままにしとくから。そのかわり、セイ以外誰にも会っちゃいけないよ。 大変かもしれないけど…君が選んだことだから、きっと大丈夫だね。」



僕は頷く。



「すばる、またね。」



そう言って黒の神様は消えた。
文字通り目の前から突然消えた。



「黒の神様…?」





橙の光が部屋を満たしている。
やわらかい空気。
僕はようやく痛みがすべて消えていることに気づく。
黒の神様……。
どうして、こんなにも良くしてくださるのだろうか……。
そう言ったら、君の思いの強さがなんとか、とか言うのだろうけど…そうだとしてもそれだけじゃないと思う。
僕は本当に恵まれているな…。
なんだか眠くなってきた…。
横になればやわらかいシーツが頬に触れる。
あれ…?僕、ベッドの上にいたんだ…。今、気づいた…。
眠い、な……。
セイ……早く帰って来ないかな…?
せ、ぃ……。












どこに進むのか……

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