星輝く空







部屋に戻るとセイは寝ていた。
どういうわけだかこちらに背を向けて上下逆さまだったけど。
普段の寝相の良さを考えれば珍しい。
僕はふとんにもぐり込む。セイの温かさが冷えた体にちょうど良い。
胸の辺りがきゅっとなってセイの背中にぎゅっとした。



初めて、僕からセイに抱きついた。

なんだかそれがとてもうれしくて背中に額を擦りつける。
いいにおい……。
セイ、セイ、セイ、セイ、セイ、セイ、セイ――――
心臓がどきどきしてる。
セイ、僕、どうして苦しいのかな?こんなにもしあわせなのに…。
僕、考えなくちゃ。
でも今は、ただセイにしがみついていたくて腕に力をこめた。



「ぅん?…すば…る…?」
寝ぼけ眼のセイが僕の方を振り返る。





「セイ!おはよ!」
とびっきりの笑顔で朝のあいさつをする。
小鳥のさえずりが朝を知らせる。
今日が始まる。











今日の朝ごはんは「さらだ」と「さんどいっち」。
どっちにもはっぱが入っている。
不気味なほど緑色の食べ物に僕は身震いする。



「ねえ、セイ…。これ、本当に食べれる?はっぱがたくさん入っているんだけど……はっぱ、おいしいの?」



パンにはさまれたチーズとハムと卵…そして、はっぱ。
あったかくないし、においもそんなにしない。
なによりもはっぱ。
「さらだ」なんかはほとんどがはっぱ。
僕は困惑してセイにたずねる。



「ねえ、セイ。これ、ごはん…だよね?」



これは、絶対嘘だ。これはセイが考えた新しい遊びだろう。
僕はそう信じていた。いや、だってはっぱだし……。
セイは難しそうな顔をして黙っている。けど、笑っているような…?
眉間にシワを寄せていると、セイが耐えられなくなったのか大声で笑い始めた。



「ぶっ、はぁっ!あは、ははは…あっはははっははは!!はぁっ!いや、いやいやいやいや…ぶっ…すばるぅ…そりゃ…ないだろ…。 はっぱ!あははっは!いやあ、たしかに…確かに葉っぱだけどさ…っ……これ、立派なご飯…だぞ。」



途切れ途切れに言う。笑いすぎて逆に苦しそうだ。
お腹を抱えて大笑いしているセイ。僕は頬を膨らませてセイをにらむ。
だって、そんなに笑わなくてもいいじゃないか!
だって、僕、「さらだ」も「さんどいっち」も初めてみるんだもん!!
はっぱがたくさんなんて知らなかったんだもん!!



「ぷぅー。セイのばかぁ!だって僕知らなかったんだもん!!そんなに笑わなくてもいいじゃないぃ!」



セイを見て、「さらだ」と呼ばれるぱっぱを見た。
うっ…どう見ても…はっぱ…。
僕が悪いんじゃない…「さらだ」がどう見てもはっぱだから悪いんだ!
僕が悪いんじゃ…ない……。
よね?



唇を尖らせている僕は「さらだ」を「ほーく」でつつく。
しゃきしゃき音がなって僕はまた身震いする。
食べ物から…変な音がする……どうしよ…これ、食べるのかな…?
そっとセイを窺うと僕と目が合った。
慌てて視線を逸らすけれど、そんなことは無意味なぐらいばっちりと目が合ったから……うぅー、恥ずかしい。



「すばる…?食べないの?」
にやりと笑ったセイは意地悪な笑みを浮かべて言った。





「…たべ……る…………かも。」




僕は曖昧に答えた。セイがいじわる言うし…。
これが本当に食べれるのか僕にはわからないし…。



「すばる、かわいい。」
今度は満面の笑みで言われた。
眉を顰めてセイを見れば、セイはにこにこと笑っていた。



「ごめんね、すばる。すばるがあんまりにもかわいかったからつい意地悪しちゃった。 だって、はっぱだし……ものすんごい疑いの目でサラダを睨んだりしてさ……もう、かわいすぎて…だから、ごめんね。」
僕の頭を撫でながらセイは言う。最後にこれは食べられるんだよ、と笑いながら付け加えることも忘れずに。 大きな手が髪を梳く。目を細めてセイに撫でられていた。






しばらくそうやって髪を撫でられた後、ようやくご飯を食べることにした。
メニューは言わずもがな「さらだ」と「さんどいっち」だ。
セイが食べられると言ったから本当なんだろう…。
僕はどう見てもはっぱにしか見えないものを食べる覚悟を決めた。
ふぉーくを右手に持ってセイを見る。
セイはゆっくりと頷く。
覚悟を決めて、食べる前の呪文を唱える。





「「いただきます!」」



声を合わせて、軽く手を合わせた。
僕は恐る恐るふぉーくをさらだに突き刺した。
しゃきっと新鮮な音がする。
「どれっしんぐ」をかけたさらだは少しおいしそうだ。
意を決して口に放り込む。

















「あれ…?――――――お、いしい。」








ええ!?
こ、これっ!おいしい!!
なんで!?なんではっぱがおいしいの?!
僕はあまりにもびっくりして思わずセイを見た。
セイはにっこり笑ってさんどいっちを食べている。



「ほら、おいしいでしょ?」
そう言って僕の口元を布で拭ってくれた。



「うん!!」



はっぱ…と思っていたものがとてもおいしかった…。僕はそのことにとても感動しながらさんどいっちを手に取る。
きらきらした目で僕はさんどいっちを眺める。それをセイが見守る。
ご飯はやっぱりおいしい!!
僕は夢中でさんどいっちを食べる。もちろんさらだも。
はっぱはものすごくおいしかった。僕はものすごく感動した。
空になった器を見て僕はなんだか不思議な気持ちになる。だって、さっきまであんなにおいしくなさそうなはっぱに見えたのに… 全部食べたし、おまけにとてもおいしかった!はっぱはすごい!!















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