星輝く空
9
部屋に戻るとセイは寝ていた。
どういうわけだかこちらに背を向けて上下逆さまだったけど。
普段の寝相の良さを考えれば珍しい。
僕はふとんにもぐり込む。セイの温かさが冷えた体にちょうど良い。
胸の辺りがきゅっとなってセイの背中にぎゅっとした。
初めて、僕からセイに抱きついた。
なんだかそれがとてもうれしくて背中に額を擦りつける。
いいにおい……。
セイ、セイ、セイ、セイ、セイ、セイ、セイ――――
心臓がどきどきしてる。
セイ、僕、どうして苦しいのかな?こんなにもしあわせなのに…。
僕、考えなくちゃ。
でも今は、ただセイにしがみついていたくて腕に力をこめた。
「ぅん?…すば…る…?」
寝ぼけ眼のセイが僕の方を振り返る。
「セイ!おはよ!」
とびっきりの笑顔で朝のあいさつをする。
小鳥のさえずりが朝を知らせる。
今日が始まる。
☆
今日の朝ごはんは「さらだ」と「さんどいっち」。
どっちにもはっぱが入っている。
不気味なほど緑色の食べ物に僕は身震いする。
「ねえ、セイ…。これ、本当に食べれる?はっぱがたくさん入っているんだけど……はっぱ、おいしいの?」
パンにはさまれたチーズとハムと卵…そして、はっぱ。
あったかくないし、においもそんなにしない。
なによりもはっぱ。
「さらだ」なんかはほとんどがはっぱ。
僕は困惑してセイにたずねる。
「ねえ、セイ。これ、ごはん…だよね?」
これは、絶対嘘だ。これはセイが考えた新しい遊びだろう。
僕はそう信じていた。いや、だってはっぱだし……。
セイは難しそうな顔をして黙っている。けど、笑っているような…?
眉間にシワを寄せていると、セイが耐えられなくなったのか大声で笑い始めた。
「ぶっ、はぁっ!あは、ははは…あっはははっははは!!はぁっ!いや、いやいやいやいや…ぶっ…すばるぅ…そりゃ…ないだろ…。
はっぱ!あははっは!いやあ、たしかに…確かに葉っぱだけどさ…っ……これ、立派なご飯…だぞ。」
途切れ途切れに言う。笑いすぎて逆に苦しそうだ。
お腹を抱えて大笑いしているセイ。僕は頬を膨らませてセイをにらむ。
だって、そんなに笑わなくてもいいじゃないか!
だって、僕、「さらだ」も「さんどいっち」も初めてみるんだもん!!
はっぱがたくさんなんて知らなかったんだもん!!
「ぷぅー。セイのばかぁ!だって僕知らなかったんだもん!!そんなに笑わなくてもいいじゃないぃ!」
セイを見て、「さらだ」と呼ばれるぱっぱを見た。
うっ…どう見ても…はっぱ…。
僕が悪いんじゃない…「さらだ」がどう見てもはっぱだから悪いんだ!
僕が悪いんじゃ…ない……。
よね?
唇を尖らせている僕は「さらだ」を「ほーく」でつつく。
しゃきしゃき音がなって僕はまた身震いする。
食べ物から…変な音がする……どうしよ…これ、食べるのかな…?
そっとセイを窺うと僕と目が合った。
慌てて視線を逸らすけれど、そんなことは無意味なぐらいばっちりと目が合ったから……うぅー、恥ずかしい。
「すばる…?食べないの?」
にやりと笑ったセイは意地悪な笑みを浮かべて言った。
「…たべ……る…………かも。」
僕は曖昧に答えた。セイがいじわる言うし…。
これが本当に食べれるのか僕にはわからないし…。
「すばる、かわいい。」
今度は満面の笑みで言われた。
眉を顰めてセイを見れば、セイはにこにこと笑っていた。
「ごめんね、すばる。すばるがあんまりにもかわいかったからつい意地悪しちゃった。
だって、はっぱだし……ものすんごい疑いの目でサラダを睨んだりしてさ……もう、かわいすぎて…だから、ごめんね。」
僕の頭を撫でながらセイは言う。最後にこれは食べられるんだよ、と笑いながら付け加えることも忘れずに。
大きな手が髪を梳く。目を細めてセイに撫でられていた。
しばらくそうやって髪を撫でられた後、ようやくご飯を食べることにした。
メニューは言わずもがな「さらだ」と「さんどいっち」だ。
セイが食べられると言ったから本当なんだろう…。
僕はどう見てもはっぱにしか見えないものを食べる覚悟を決めた。
ふぉーくを右手に持ってセイを見る。
セイはゆっくりと頷く。
覚悟を決めて、食べる前の呪文を唱える。
「「いただきます!」」
声を合わせて、軽く手を合わせた。
僕は恐る恐るふぉーくをさらだに突き刺した。
しゃきっと新鮮な音がする。
「どれっしんぐ」をかけたさらだは少しおいしそうだ。
意を決して口に放り込む。
「あれ…?――――――お、いしい。」
ええ!?
こ、これっ!おいしい!!
なんで!?なんではっぱがおいしいの?!
僕はあまりにもびっくりして思わずセイを見た。
セイはにっこり笑ってさんどいっちを食べている。
「ほら、おいしいでしょ?」
そう言って僕の口元を布で拭ってくれた。
「うん!!」
はっぱ…と思っていたものがとてもおいしかった…。僕はそのことにとても感動しながらさんどいっちを手に取る。
きらきらした目で僕はさんどいっちを眺める。それをセイが見守る。
ご飯はやっぱりおいしい!!
僕は夢中でさんどいっちを食べる。もちろんさらだも。
はっぱはものすごくおいしかった。僕はものすごく感動した。
空になった器を見て僕はなんだか不思議な気持ちになる。だって、さっきまであんなにおいしくなさそうなはっぱに見えたのに…
全部食べたし、おまけにとてもおいしかった!はっぱはすごい!!