羽根




   2.



「なあ、何着ればいいと思う?」
振り返って訊けば、まだ固まっている友人がいた。
「いい加減そろそろ戻れよめんどくさい。ってか、駄賃要求してきたのお前の方だぞ。」

はあー、とわざと大きな溜息を吐けば軽く飛び上がって驚いた友人はぱくぱく口を開け閉めしていた。

「はあー、もういい。帰れよ。」

「いや……だめだ…。」

何がダメなのかよくわからないけど首を振ってダメだと言い続ける。
…理解できない。
友人には悪いが放置することにした。


「ってか、ほんと…何着れば…。」
羽が服に掛かって邪魔になるのは目に見えている。
どうにか引っ込まないかな…。
うんうん唸っていると控えめにドアを叩く音がした。
「はぁーい。どなたか存じませんがどーぞ。」
開いた隙間から見えたのは隣に住む幼馴染。

「ちょっ!………学校サボったと思って来てみれば……何それ。」

ドアを閉め一直線にこちらに向かってくる。
見た目は可愛い女子なんだけどな…。

「あんた、コスプレの趣味でもあったの?しかも上半身裸とか何狙ってんの?」

しかしこれだ……。

「女の子が来たっていうのになんで服着ないのよ!もう!ってか何?…私邪魔なの?お二人の時間を邪魔しちゃってごめんなさいね、 もう出て行くから……。そんな関係だとは思わなかったし……。」

「は?」

「マジごめん。誰にも言わないって約束するからさ。…学校休むから、余程のことがあったんだと思ったけど…違うな… 余程のこんなことがあったから休んだんだね。ごめん察せなくて……。」

引き攣った笑顔を浮かべて幼馴染は部屋から出て行こうとする。
これは引き止めて説明しなくては!
今後の俺の評価に悪影響が及んでしまう!!

「待て!幼馴染!!」

勢いよく入ってきた人物と同じだと思えないくらいまごまごしながら振り返る。
「な、なに…?」

「お前、勘違いしているようだが…友人とは――――」
「永遠の愛を誓った仲だ。」

硬直してるよ…。
可哀想に。

「友人…」
「なんだ?」
ベッドの上にニヤニヤしながら座っている友人を睨む。

「おお、悪い悪い。ほんの冗談だったんだけど……幼馴染くんは…本気にしちゃったようだね。」
そう言ってクスクス笑う。
この状況をかなり楽しんでいるご様子で。
さっきまで固まっていたヤツはどこのどいつだと思ってるんだ。

「はぁー。わーったよ。」
立ち上がると幼馴染に向かって歩いていく。何をするのかじっと見つめていれば友人は―――――頭突きした。阿呆だ。
知り合いとはいえ女の子に頭突きは無いだろ。友人は何を考えているのかいつもわからないけれど今回のは…特に…意味のわからないことを……。 こんなことするヤツだっただろうか。それが俺の友人だというから頭が痛い。
片手で額を押さえていると、友人の笑い声が聞こえた。


「あは、あはははははは!!!!」

「マジウケる!でこ赤くなってんのぉ!」

指を指して幼馴染を笑う。
人として最低だと思う。頭突きしといてそれはないだろうが…。
今すぐコイツと縁を切りたくなってきた。

「あー、俺とお前は相思相愛だから縁なんて切れないよぉー。」
思考を読んできたかのように友人は言う。

「ってか、相思相愛とか言うな。」

「へへへ、照れちゃって可愛いなぁ。」



「やっぱり恋仲だったんだ……。」
目が覚めたらしい幼馴染はまだ勘違いをしている。
友人を睨む。

「…そんなに見つめるなよ。」

低音ボイスぅううううう!!!!

無駄に使ったよ!コイツ無駄にイケメンボイスぅううう!!!


コイツ懲りねぇ……。
力が入りすぎてぶるぶる震える拳はもう限界だ。

「友人、」
「なんだぁ?」

「殴らせろ。」

「は??」



遠慮なく殴った。


「ちょっ、マジで殴るとか…。」
左頬を擦りながら文句を言ってきたが自業自得だ。


「幼馴染。そういうことだ。友人の醜悪なイタズラだからな!」
人差し指を突き付けて言う。

「じゃあ…その……羽根は…?」
納得したのか頷く。けど…まあ、羽根は気になるよねぇ。
俺だってパニクったし。


「うーん。なんかね…本物。マジで羽根が生えてきちゃった。」

あはは、と笑っても誤魔化せないものは誤魔化せない。
というか現在進行形で背中にあるんだから誤魔化すなんて出来やしない。

「ね。」



にっこりと笑う。
何か思いついた時の幼馴染のクセ。今日は悪い予感がします。




「空、飛べないの?」







???????????


飛ぶ…だと………?


「そう、羽根あるんなら飛べるのかなぁーって。あ、もしかしたら鶏みたいに不格好になら飛べるかもしれないしねぇ。」

目が…笑ってないよ…。コレ、冗談…ではなく本気…デスカ。

「あのぅ…」
「もちろん試してみるよね?」

俺の発言に被せるように言う。
選択肢は無しか…。


「友人、た――」
「ムリだ!」

即答!!!


かくして、俺は飛行訓練を受けならなければならなくなったのです。


つか、飛行訓練って…。







果たして俺は無事に地上に舞い降りることができたのでしょうか。
まあ、それはまた別の話。





羽根は何かとメンドウだけど、気に入ってんだぜ。
風を切る感じとかさ。








おわり












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