月の寝る頃





 7.



登場人物紹介はありません;暴力表現、血、精神的に病んでいます。
苦手な方、影響を受けやすい方は回れ右でお願いします。閲覧後の保証はいたしておりませんのでご了承を!!










いくらなんでも近所のゴミ捨て場にこれを置くことはできない。
がたごと、がらごと、重たいキャリーケースを引きずって俺は駅を目指して歩いていた。
お昼過ぎ。
人はまだ少ないけれど、ちらほら歩いている。
お昼時といえばお昼時。
良い匂いがそこらに充満して俺のお腹の虫を誘ってくる。
っても、さっき吐いたばかりだし…口は食べるのを拒否している。
仕方ないことだ…。


がたごと、がらごと。
いい加減腕が疲れた。駅はまだか。うーん、もう少しか。
少々……と言いたいところだが…ホントはかなりメンドクサイ。
何故わざわざ、なんて思うけれど…俺が招いた事態だから仕方ない。
メンドクサイけど仕方ない。
がたたごとん、がららごとん。
誰もこの中に犬の死体が入っているなんて思いもしないだろう。
がたごとん、がらごとん。
駅に向かって歩く。あと少しの辛抱。もうじき駅に着くだろう。



ひとり。
ひとり。この世界に俺はひとり。ひとりぼっち。
だあれも助けてくれやしない。だあれも救ってくれやしない。
俺のミカタは俺だけで、すべてが敵も同然だ。
みんな俺にプラスの感情を向けることはない。
友達として接していた…あの関係はもう無になった。
あの日にすべてが壊れた。
家族も、俺も、俺を取りまくすべてのものが…。
一瞬にして粉々に砕け散った。
向けられる視線は俺を突き刺していく。
誰も俺に関わらない、しゃべらない。
まるで、呪われるとでもいうかのように。

学校なんて来なければよかった。

俺は何を期待していたのだろうか。
家族を殺された哀れな少年だと言われたかったのか…。
同情されて慰めてほしかったのか…。
机を睨んだところで事態は変わらない、それどころか悪化した。

「なぁ、お前さ…なんでこんなところにいるのぉ?」
耳障り。
今まで話したことさえなかったクセに…こういう時だけ……。

「……この、死にぞこないが。……お前なんかさっさと死んでくれればよかったのにさ! なんで学校に来てんの?…みんながメーワクしてんの気づかないの?」

偉そうに言う。棘だらけの言葉で俺を傷つける。
俺はソイツを睨む。ありったけの憎悪を込めて。

「…ひぃっ。な、なんだよっ!本当のことじゃないか!!」

怯えながらも言い返してくる。


ホント、ムカつく。


こんなことも想定できなかった俺自身に。
だから言ってやった。

「ああ。確かに俺は死にぞこないさ!あの時、家族と死ねたら良かったのに…って毎日毎日考えるんだ。 けどさ……そのまま死ぬなんて…もったいないじゃん?だーかーら、俺は犯人を殺すまで…復讐するまで死にたくないわけ。 だから、みんなの期待に応えられなくてゴメンね。アイツらも同じように、血みどろで、内臓まき散らして、眼球も、 舌もなくして、醜い肉の塊にしてやるんだ。そーいうわけだから、邪魔…しないでね。」

にっこりと最後に笑顔もつける。
かなり、大きな声でしゃべったからクラス中に聞こえただろう。
しんと静まり返った教室が滑稽である。

荷物をカバンに詰め込んで教室を後にした。
もちろん、うるさく文句いってきたアイツの肩を叩いて…しっかり脅しをかけて。
アイツのおかげでこの話が表で大騒ぎになることはないだろう。
誰か一人でもこの話を他の人に話せば殺すと脅してみたし…。
うまくいくなんてこれっぽっちも思っていない。


俺は―――――――









揺れてる。
地面ががたごとと。
窓から見える景色は何故かどんどん横に流れていく。
いろんな人がそこには居て、頭上でつり革が揺れる。
足の裏から規則的に振動が伝わってきてここが電車の中だということがわかる。
俺はいつの間にか電車の中で座っていた。

がたんごとん。
キャリーケースが揺れる。
その中身を思い出して俺は顔を顰める。


臭いが漏れてそうな気がして周りを見回したが幸い近くには誰もいなかった。
空いている車両の中で俺はただ揺られる。
どこかの駅で停車して、発車する。
窓から見える景色はどんどん緑が多くなっていって都心から離れていっていることを知った。
次の駅で降りることにした。
その次がコンビニも無いようなど田舎になる前に降りた方がいいんじゃないかと思ったからだ。
がたんごとん。



「……お腹すいた。」

腹を擦れば腹の虫が抗議してくる。
手持ちはそんなに多くない。コンビニ…あるといいな。

緑色にはリラックス効果があるとか、ないとか。
俺の混乱した頭をスッキリさせてくれるかな…と期待して……やっぱり無理かな…。
そう思いながら窓の外を眺める。
久しぶりに赤じゃない色の鮮やかさを見た。
がたんごとん。
次の駅までどのくらいかかるのか――――


犬の死体は知っているだろうか…。








つづく…


















  close