星輝く空
10
手を合わせて、お片付けの前の呪文を言う。
「「ごちそうさま。」」
セイと目が合って、僕たちは笑いだす。
たくさん笑ったあと、僕はセイに訊ねた。
「ねぇ、セイ。あのね…あの…はっぱ……すんごくおいしかった、よ。うん…セイの言っていたとおり…あの、ごめんね。
セイがあのはっぱ持ってきた時うそだと思った。だって、どう見てもはっぱだし…僕をからかっているのかなとか、思っちゃった…。
あと、それとその…えと、あのはっぱってさ名前とかあるの?」
気になっちゃってと言えば手が伸びてきて頭を撫でられる。
ちょっぴりなんだか恥ずかしいけど、それよりもとてもうれしい。
「ん?あれは…レタス、って言うんだよ。他の…んまあ…はっぱ、もサラダにできるんだけどね……
すばるがたぶん初めて食べるだろうからと思って食べやすいレタスにしたんだよ。」
そう言ってにっこり笑う。
セイの笑顔はとてもすてきだ。
「…あ、ありがと…。」
二重の意味で赤くなった僕は俯いてセイに顔を見られないようにする。
それでも、たぶんセイは僕が赤くなっていることに気づいているのだろうけど…。
ほんとに反則だよ…。セイ優しいし…かっこいいし…笑顔が……もう、あああああああぁ。
僕の心臓が張り裂けそうなほどどきどきしてる。どうしよう、どうしよう…どうしたんだろう…?セイがきれいだから?
セイが優しいから?どちらもちがうような気がして首を振る。ちがう、ちがうんだ――――。
何か…わかりそうでわからない。
「すばる…?」
セイがいつの間にか隣に屈んで僕の顔を覗き込む。
目が合って僕は驚くよりも先に固まった。しばらくの間の後、驚いて立ち上がる。驚きすぎて声も出なかった。
ふたたび固まる僕にセイは言った。
「すばるってば…驚きすぎ。もしかして、俺のこと好きなの?」
からかうような口調でそう言う。
そう、これは…冗談だ。いや、冗談に決まっている。
セイは立ち上がり僕を見下ろす。
深い黒の瞳。そこに在るのはなんだろう…。
僕の顔がその瞳に映る。不思議な顔をした僕が映っていた。
セイは――え?いまなんて―――――。
「……なんだよ。冗談に決まっているじゃないか。もう、すばるったら…そんな顔して、狐につままれたみたいだよ。」
あはは、と軽く手を振ってセイは部屋を出て行く。
「ああそれと、後片付けをする前に小鳥さんたちにおすそ分けしてくるから…。」
ばたん!
扉は閉じた。
僕はひとり部屋に取り残される。ふいにおとずれた静けさになんだか胸がきゅっとなって……。
あれ?セイは―――?
モシカシテ、オレノコトすきナノ?
そう言った。
すき?すきって何?
あれ?僕―――――セイがすきって言ったら、冗談だと、思った?思おうとした?なんで?なんでなんだ?
だって……僕は「すき」って意味も知らないのに…どうして?
心臓がどきどきしてたとき、わかりそうだったものは何?
セイに言われた「すき」を冗談だと思ったのは何故?
セイがいないこの空間がとてもさびしく感じられるのはどうして?
セイが背を向けるあの一瞬―――さびしそうで…。
何故そのことを思うと胸が苦しいの?
わからない。わからない。どうしてもわからない…。
僕は諦めようとした―――でも、
ちがう!黒の神様と…約束したんだ!考えなくちゃ…。
僕の気持ち。僕の苦しみ。セイのさびしさ。セイの言ったこと。
確かに、僕には人の感情なんて…難しすぎてわかるような気がしない。
けど、僕は知りたい。わかりたい。
セイといっしょにいられるならば、いたいと望むのならば感情を…僕は…わからなくては……
喜び、怒り、哀しみ、楽しみ。そんな単純なものなんかじゃない。もっと複雑で難しいもの。
それがわかったとき僕はようやく一歩進める、そんな気がした。
僕は考える。思考―――。