星輝く空



14




目を開ける。
見えるのは白いシーツとカーテンのかかった窓。
それと、セイの黒い髪の毛。



思い返せば返すほど恥ずかしい…。
セイに抱きしめられたあの後、僕は思いっきり泣いてしまった。
そのおかげで目が腫れぼったいし、こすった目元がひりひりする。
ほんと恥ずかしいことした…。
なんで泣いたのか今考えてもよくわからない。
なんだかすごく泣きたくなったのはおぼえている。
悲しかったからじゃなくて…なんだかとてもうれしかったからだ。
うれしかった。
セイが僕のことを気にかけてくれるのがうれしかった。
こころがあったかい。
手を伸ばしてセイの柔らかな髪に触れる。



「…せいぃ。」



呼んでみたけど返事は無い。それをいいことにセイの髪をいじる。
さらさらの黒い髪はとてもきれい。セイは僕の金色の髪のほうがきれいだって言うけれど…僕はぜったいにセイの黒髪のほうがいいと思う。



「きれいな…黒い髪…。」



ぽつりとこぼす。
それでも髪を触っていたら突然手首を掴まれた。



「うわっ!……びっくり、したぁ。セイぃ。起きてたんなら言ってよ。」



ぷぅっと頬を膨らませて睨む。
視線の先には寝癖のついたセイが僕の手首をつかんでこっちを見ている。
にこにこしてるセイは今起きたばかりって感じじゃなくて…僕が呼ぶ前から起きていたことがわかった。



「おいで、すばる。」



手を引かれて僕はセイの腕の中に。
僕は胸に耳をあててセイの心臓の音を聴く。
規則正しい音が聞こえる。



「セイ…心臓の音がきこえるね。どきどきしてる。」



セイの胸に耳を強く押し当ててみる。
心臓は変わらず同じリズムで動いている。心が落ち着くそのリズムを刻んでいる。時計の針が時を刻むように同じ速度で人生を刻む。
あたたかさが頬を伝って僕の全身にいきわたる。
セイがここにいることを確認できる。
それがすごく嬉しい。
とても満たされる。
セイ以外はこの世界にいないようなそんな気分になる。
とてもあたたかい。



「セイ…。僕ね、なんだかすこし…わかったような気がするんだ。」



見上げるようにしてセイを見る。
疑問がうかんでいるセイの顔を見ると思わず口元がゆるむ。



「どうしたの?すばる?……わかったって何が?」



「なあんでもないぃ!」



くすくす笑う。
まだ、今はまだ…もうすこし……ぼんやりしているところをはっきりさせてから……もっと、 この曖昧な感情にはっきりとした色をつけてから…そのときがきたら……セイに、セイに…話したい…。
そう、思った。



「ねぇ、今日の朝ごはんはなに?」



誤魔化すように言う。
そうしてもセイがいやな顔をしないと知っているから。



「今日はね、すばるの好きなコンソメスープだよ。…教えてくれないなら…ほら、もう準備しようか。」



セイの大きな手が僕の頭をなでてくれる。
瞳の奥にすこしだけ、不安そうな…そんなものが見えたけどすぐに消えて無くなる。代わりにそこに優しいものが宿る。



「うん!」



「じゃあ、着替えて。先にお鍋温めとくから。」



「わかった。こんそめすうぷ…先に食べないでよ?」



「もちろんだよ。ちゃんとすばるが着替えてくるの待っておくから、はやく着替えてね。」



セイの笑顔はすてきだ。
僕はすこし頬を染めながら頷く。














あたたかな…そして、穏やかな日々は簡単に無くなる。
そんな、当たり前のことを僕はすっかり忘れてた。









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