あるひとの夕暮れ





ようやく雨が上がった。もう日も傾いていて、おひさまと今日も別れを告げる。また明日と。
雨上がりの道路はまだ雨の匂いを残していて、なんだか鼻の辺りがくすぐったい。
小学生が閉じた傘を振り回して遊んでる。
こちらに気づいて手を振った。
そのまま歩き出す。
オレンジ色の光。
あちこちにある雫がその光を七色に変える。
今度は高校生に会った。三人組で三人ともスカートが短かった。そして、とても仲の良さそうな雰囲気を醸し出していた。 ひとりがこちらを見て指を指したので、残りの二人もこちらを見てきゃっきゃと騒いでいた。
駆け足でそこを立ち去る。
すぐに人通りの多い通りに出る。
色とりどりのたくさんの人々で通りはごった返していた。
道に沿ってある店々のおばさん達が店の前を通ると次々に顔を出して、挨拶をしてきたり、手を振ったり、調子はどうなのと尋ねてくる。
駆け足でそこを抜け、目的地へと向かう。
この先の坂を上った所にある神社だ。
赤い鳥居がたくさんあってなんだか不思議な感じがする所だ。
向かっている途中途中でこどもから大人、老人に至るまでこちらに手を振ってくる。手を振りかえすようなことはしない。



ようやく最初の鳥居までたどり着いた。
水溜まりがたくさんあったから足元はもうびじょびじょだ。
階段を駆け上がる。
長い長い階段。
たくさんの鳥居。
やっとたどり着いた階段の終わりには、和服姿の初老の男性が立っていた。
手には竹箒。
それに枯れ葉の詰まったビニール袋。
男はにこやかに言う。
「…相変わらず、時間はきっちり守るのですね。」
その言葉を無視して最後の鳥居をくぐる。
ちょうど右手にある小さな池で魚が跳ねたので、淵に駆け寄る。
「おやおや、魚は見るだけにして遊んではいけませんよ。」
そんなのわかりきっているぞ、と振り返れば…。
「何もそんな顔をしなくてもいいじゃないですか。」
と返される。
「じゃあ、すぐに支度しますね。」
そう言って建物の中に消えた。
視線を再び池に戻せば…魚は悠々と水面下を泳ぎ、水面の波紋は落ち着いて池を覗き込んでいるものを映し出していた。
三毛が美しい猫。
水面を肉球で叩いて騒がせる。
もう猫はいない。
建物の中から呼び声がする。急いでそこへ向かった。
もう一度池の方を振り返れば、魚が跳ねた。


今日のご飯は何だろう。







終わり。






close