星輝く空



15






その日は午後から雨が降ってきた。
干していた洗濯物も急いで取り込んで、窓から外を眺める。
雨の降る音と灰色の空がそこにあるだけでそれ以外は何もない。
静かな家の中で僕はひとりセイを待つ。
セイは雨が降り始めた時に出かけてしまった。近くの川が「はんらん」するかもしれないから様子を見てくるそうだ。 ここは丘の上にあるから万が一「はんらん」したところで大丈夫だけど…なんとか…ってセイが……。 とりあえず、行かなくちゃいけないらしい。僕にはよくわからなかったからそのままセイを送り出した。 そもそも、僕は「はんらん」という言葉がわからなかった。セイの言いつけ通り外に出なければいいのだろう。セイが帰ってくるまで。



……セイ、おそいな。



待つのはすごくながく感じる。
ほんのすこししか時間は経っていないだろうけど…。
雨はまだ止みそうにない。
何度目かのため息をつく。
窓から帰ってくる姿を探すが雨で白くなった外は視界を狭める。
それでも僕はまっ白い世界を見つめていた。



不意に影が見えた。





僕は急いで玄関を開ける。



「セイ!!おかえり!」



叫んだ僕の瞳に映ったのは――――










「………ちが、う。」



セイじゃなかった。
知らないひと。黒の神様でもない…セイでもない…。
初めて見る、男たち。
そう、3人そこに立っていた。



「だ、れ……?」



こわくて脚がふるえる。
思わず口をついて出た言葉さえふるえている。
大柄な、鋭い目を持つ男たち。
その目が僕を射抜くようで、そこに込められた負の感情がこわくて僕はその場で動けなくなる。
すこしでも動けば腰に下げた剣で斬られてしまいそうな気がする。
息すらも抑えて僕は突然あらわれた男たちを見る。



「…何だ、お前は……。何故このような所に居る…。何処の誰か名乗って貰おうか。」



地を這うような低い声が僕にとどく。
恐ろしさにびくっと飛び上がってしまったのも気に障ったようだ。
俯いてうるさい心臓を落ち着かせようとするけども、だめそうだ。
こわい。こわい、こわくてこわくてふるえが止まらない。



「なんだ…口も利けないのか…?見ない顔だな。その髪も……。」



手前にいた男が僕の髪を掴みあげる。
ぶちぶちと髪が抜ける痛みに息をのむ。



「へぇ。隊長…これ、ホンモノですぜ。」



髪を掴んでいる男が先程から話している男に声を掛ける。



「おい、手荒なことはするんじゃねぇ。…後で面倒になったらどうするつもりだ…?」



髪を掴んでいた男はしぶしぶ髪を離す。
その手に幾本も金色の髪の毛が絡んでいるのを僕は見た。



痛みと恐怖でその場に蹲る。



一番手前にいる男が僕の髪を掴んだ…その斜め後ろにいるのが最初に話しかけてきた男。その隣にもう一人、黙って立っている。
3人の格好を見ればどうやら普通の人じゃないとわかった。
わかったからといってこの恐怖が消えてなくなるわけじゃあない。



「なんだ…本当に喋れないのか?」



最初に話しかけてきた男…隊長と呼ばれた男は僕を文字通り見下す。
汚いものでも見るようなその目がこわかった。
僕の目から雫が落ちる。
今まで黙って見ていた男がそれを見て眉を顰める。
こんなにもあからさまな悪意にさらされたことの無い僕はもう限界だ。



「…っは……。」



喉に空気が引っかかるような感じがする。
セイ…はやく、はやく…かえって、きて…。
呼吸がうまくできない。どうやって息をしていたのか思い出せない。
くるしい。こわい。
セイ、セイ、たすけて…。
セイ…はやく……おねがい、帰ってきて…。
セイ?
あれ?呼んでる…?誰が?
頭のどこかで誰かの呼ぶ声がする。
だれ?僕は…。



僕はここに――――








突然の痛みで現実に引き戻される。



「…っう、がはぁ!」



ものすごい衝撃で息ができない。
脇腹があつくて、いたい。壁にぶつかった背中もいたい。頭がぐらぐらする。
なにが…起こったの……?





「隊長ぉお!!なにやってるんすかぁ!さっき、隊長が手ぇだすなって言ったじゃないですかぁ。 ひどい、ひどい。蹴るんならオレにやらしてくれれば良かったですのにぃ!」



手前に立っていた男がなにか騒いでる。
なんて言ってるかよくわからない。
ただ、隊長と言われてる男が僕を睨んでいることはわかる。



「ねぇ隊長ぉー。いいでしょ、オレにも遊ばせてくださいよぉ〜。隊長だけずるいずるい!」



ふと、騒いでいた男がこちらを向く。
さっきまで隊長という人に叫んでいた男とは思えないほどの冷たい…無表情で、こちらを見た。にやり、と口元が歪んでいく。



「逃げんなよ。」



低い声は騒いでいたときと違ってものすごい迫力があった。
冷や汗が背中を伝う。
肉食獣に睨まれた草食獣のきもち…。
逃げれない。逃れられない。
このまま僕は殺される。
そう、思った。それぐらいの殺気だった。















暗転。。

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