星輝く空



19





静けさに耐えられなくなって僕は歌をうたう。
音だけの歌詞の無い歌。
小さく口ずさんでさびしさを紛らわせる。
台所の机の上にはお鍋が置いてあった。
蓋を上げて中をのぞけばこんそめすうぷが入っていた。



「……………。」



無音が僕の耳をおかしくしてしまいそうだ。
歌をうたっても無音は僕を蝕む。



「…そうだ、ほん。本を読もう。まだ今日のぶんは読んでないし…ぜんぜんべんきょう進んでない……。そうだ、そうしよう…。」



独り言もこの空間に飲み込まれていくような…そんな感じがする。
台所から寝室へ。本棚にはセイが読んでいる難しい本と僕が読んでいるかんたん…らしい本が並べられている。
本棚にはまだ空きがある。
ここにあたらしい本が並ぶのだろうか…。



いつもの「もじ」の本を手に取ってベッドに腰掛ける。



「えーと、月。書くの…むずかしそう…。いち、にぃーい、さんっ…それで……。」



指でなぞって書きかたをおぼえる。
おぼえるのは苦手だから何回も何回も指でなぞる。
頭の中からさびしさも、恐怖も追い出すために僕は何度も何度も指でなぞった。
少しでも腕を動かすのを止めたら闇に飲み込まれるんじゃないかと思う。強く思い込んでいるだけなのか、 本当にそうなのかわからないけれど…ただ、こわくて僕は文字を指でなぞる。
時間は泥水のようにゆっくりとしか進まない。



「はやく………。」
帰ってこないかな……。
セイ…僕は、約束、守れるかな…?







ベッドに転がる。
少しけば立ったシーツは何度も洗ったことがわかる。何度も洗ったはずなのにシーツはセイのにおいがした。



「せいぃ…。僕、僕……わかんないよ…。」



本を閉じて僕は丸くなる。
膝を抱えて、目を閉じて、心の中でセイを何度も呼ぶ。
氾濫なんてよくわからないものどうでもよかった。僕が怖い目にあったこともどうでもよかった。 ただ…ただ、ここにセイがいれば、それだけでよかったのに………。
ここにセイは…いない。



「なんで…僕は……。」



慌てて口を閉じる。
よくない言葉は口にしないほうがいい。
たとえ冗談でも、その場の勢いだとしても。



「はあぁー。僕…こんなところでくじけてる場合じゃない…。ちゃんと考えなくちゃ。セイといっしょにいるために、頑張らなくちゃ。」



ぺちんと両の頬をたたいて勢いよく起き上がる。



「ほんとに…こんなことしてる場合じゃない。まっ…まずは…この世界のことからちゃんと知らなくちゃ。………やっぱり、もじ、だよね…。」



呟く言葉はだれも聞いていない。
僕を蝕む恐怖は僕の腕を、脚を、震えさせるけど…今だって、うまく笑えてないけど……。
すこしでもセイに近づきたくて。一緒にいたくて。
たとえ無理だとわかっていても。
僕はこの道にしかすすめない。
すすむ以外知らない。











知らない。












更新、、ね、



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