星輝く空





いいにおい。



何のにおいかな?
すごくおいしそうって言葉にピッタリなにおい。
僕は椅子に座らされてお行儀よく待っている。
青年が持ってきたのは琥珀色の液体だった。
それとにらめっこしている僕。
青年は僕の髪を掬って結い始める。
まだそれとにらめっこしている僕。



「…うん?毒なんか入ってないぞ。大丈夫、味は保障する。なんたって俺が作ったコンソメスープだよ。」



沈黙を破って青年が言う。
ところで…「こんそめすうぷ」とはなんなんだろうか?
器を持ち上げて恐る恐る「こんそめすうぷ」というものに舌をつけてみた。

おいしい。

夢中ですうぷを舐める。
すっからかんになった器を置くと、青年はべとべとに汚れた僕の顔を拭いてくれた。



「おいしかった?」
僕は頷く。
とてもおいしかったから。



「じゃあ、次はからだ拭こうか。」



僕は手を引かれベッドがあった部屋に戻る。



「そこに座って待ってて。」



そう言って青年は部屋を出た。
ベッドに腰掛ける。
静かだ。
隣の部屋から僅かに音がするだけでそれ以外はとても静か。
不思議な気分だ。
星だった頃は感じなかった胸のあたりのもやもや。
もやもや、悪い感じはしないけど…



「おまたせ。」



青年が部屋に入ってきた。
お湯の入った桶と布。
持って来たものをベッドの傍に置いて僕の着ているものを脱がす。
僕は黒のマントだけを身に着けていた。
これは、たぶん…黒の神様のマント。
僕に貸してくれたのだろうか?



「ねえ。聞いてもいいかな?」



青年は問う。





僕は黙っていた。
よくわからなかったから。






「…あの、その、どうして…君はあんなところでそんな格好で倒れていたのかな?」



言いづらそうに言葉にする。






「わかんない。」
それが僕の答え。





青年は黙った。 なんて声をかければいいのかわからないから僕も黙った。





青年は無言で僕を拭いていく。
素っ裸の僕。
やっぱり、ちょっと恥ずかしい。
目を閉じて初めて見た星空を思い出すことにした。











隣に温もりを感じて起きた。
いつの間にか寝てしまったみたいだ。
部屋もすっかり真っ暗になっていてなんだかほっとした。
青年は隣で静かに眠っていた。
起こさないようにそっと部屋を出る。
僕は月明かりを頼りに家の外に出た。





満月だ





大きな月を背景に、黒の神様は立っていた。



「もう慣れたかい?」
何が、とは聞かない。



「…たぶん。」
僕は小さな声で答える。



「あの!…どうして……僕の願いを…叶えてくれたんですか?」
それはずっと気になっていたこと。
あの草原で聞きたかったこと。



「どうして?――――それはキミがよくわかっているだろう?」



「…ですけど、でも、それだけなんかで…」
ごにょごにょと喋る僕。



「それだけ?キミが一生懸命祈ったことをそれだけなんて言っちゃいけないよ。私に届くぐらい……とてもとても強く願ったんだろう?」












私に届いた…そのことこそが私を動かす理由になりえるんだよ、と笑みをこぼす。





「…あ、ありがとう…ございます。」
僕の顔はきっと真っ赤。
星の兄弟たちにも見えてしまうんじゃないかと思って俯いた。
なんだか褒められてしまった。
どうしよう…
う、うれしい。
黒の神様に褒めてもらえるなんて…
一生の自慢になるなぁ。



えへへ。
俯いたままにたにたしてた。



「おっと、ちゃんと言っとかなくちゃ。」
黒の神様は今思いついたかのように言った。
神妙に頷いている姿は神様というより人間のようだった。
思わず吹き出してしまう。



「なんだ?なにかあったのか?」
不思議そうに尋ねられた。



「いや!いやいやいやぁ…なんでも、ありません。」
不自然なほど…ってそうなるのはあたりまえだけど…僕は首を横に物凄く振った。
だって。
そんな、言えないもん。
神様に人間みたいだなんて言えたもんじゃない。



「そうか、まあ…それより、いくつかキミに言っとかなければならないことがある。」
言っておくこと?
なんだろ。
難しいことじゃなければいいけどな。



「今聞いたことは絶対忘れたらいけないよ。」
そう前置きして黒の神様は話し始めた。












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