星輝く空



22


「ねぇ、すばる。」


「なぁに?」


こんそめすうぷの良い香りがする器から顔をあげてセイを見る。
セイはなんだか困った顔をしていた。どうしたのかな?


「あのね…」


「うん。」


「あー…………ごめん、なんでもない。」


うん?
セイ?なんでもない?
なんか言いたそうだったのに…。僕に相談できないことなのかな…。
僕が頼りないからかな…。
ぷるぷると首を振ってその考えを振り払う。


「そっか……。」


明らかに気落ちした声で答えてしまう。なんだか気まずい空気が流れて、僕は慌ててこんそめすうぷを口に入れる。 こんそめすうぷは熱かった筈なのにいつのまにか冷めていた。
食事の間、ひとことも会話しなかった。
こんなこと今まで一度もなかった…。
何かが崩れていくようなそんなふうに感じた。でも、僕はそれが僕の勘違いだと思う、思いたい。




思うけれど、願いは届かない。







セイは片付けを終わったあとすぐに出かけてしまった。
助けた人のところへ行ったのかな…?


今日も僕は一人ぼっち。







それが何日も続いた。
ご飯をいっしょにたべて、片付けして、セイはすぐにどこかへ行っちゃう。どこに行ってるのかもわからないし、何をしているのかもわからない。 きけばいいだけなのに…口を開けば違う言葉が出てくる。
こわくてきけない。
ぎゅっと自分を抱きしめて震えないようにする。自分の腕に爪をたてて泣かないように、こころの痛みを紛らわせるために……強く強く、 血が滲むまで……。
ベッドの上で蹲る。
傷の痛みは曖昧で、鳩尾の辺りがとても痛い。
皮が破けて肉が直に見えるそこにいくら爪をねじ込んでもずっとずっと胸のほうがいたい。いたくていたくてとてもつらい。
セイのにおいが微かに残るシーツを抱き寄せて顔を埋める。










しらないふりはいけないよ。





もう、きづいているんだろ?





ほら、みたじゃあないか。




せいがほかのにんげんといるところ。
たのしそうにわらっていたこと。
にんげんのおんなのひとはとてもきれいで…。
セイのまぶしい笑顔がかがやいていて…。








ほら、


あのゆめのように。


もうおまえはひつようない…それくらいわかってるだろう?










そう。
知ってるんだ。僕は見たんだ。
セイが楽しそうに家の前で知らない女の人と話しているの。
とても仲よさそうで………恋人…みたいだった。
綺麗な人…セイに寄り添ってる姿は……僕よりもきっとお似合いだろう。 こんな家の中に閉じ込めておくことしかできない…こんな…こんなみすぼらしいやつより、ずっとずっといいに決まってる。
金色の髪…。セイは綺麗だといってくれたけど…今じゃそれが本心から言った言葉なのかすらもわからない。 疑いたくなんてないけれど、揺れている。本当にセイを信じていいのか……。 あのこわい3人組みたいに、いつか酷いことをするんじゃないかって。それよりも酷い言葉を僕に投げつけるんじゃないかって。 そんな考えが頭の中をよぎるんだ。
あの時の…汚いものを見るような凍った瞳を覚えてる。金色の髪を忌々しそうに見ていたことも覚えてる。 ……セイが絶対に他の人に僕に会わせないのも…この髪の色のせいなんじゃないかって思うんだ…。
僕はこの地では異形でしかない。
前は星で黒の神様にお願いして人間になりました…って言ってもそんなの嘘だと一蹴されるのが落ちなんじゃないかと思う。
わかってる。わかってる、けど…。
それでも僕はセイのことが――――









内と外を隔てるドアの向こう、話し声が聞こえる。
セイ…?帰ってきたの?
最近は、毎日のようにその女の人がここまでセイを送りに来る。
いつも通りの楽しそうな話し声。
ドアの隣の窓から外をそっと窺う。
話し声は突然に途切れた。



あ。



セイ…?


心臓が大きく波打っている。それなのに指先は急速に冷えていく。


あのひと…。



目を離したいのに離せない。
息がうまくできない。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。


どして……?





ど、して……。









セイとそのひとは「きす」してた。



セイの表情は見えない。
けど、女の人の甘い顔だけは見えた。



本で読んだんだ。
「きす」は好きな人とするんだって。
お話の中では、おうじさまとおひめさまが「きす」するんだ。
「きす」は好きな人とする特別なこと…。





セイ、のとく…べつ…?









とくべつ?!


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