星輝く空



26







今朝見た夢の余韻に浸りながら僕はベッドで寝返りをうつ。差し込んだ朝日が瞼を透かすようで眩しい。
朝特有のあのすっきりとした空気が僕の肺を膨らませて、心地よい風が僕の頬を撫で上げる。
遥か遠くに小鳥たちの遊ぶ声が響いていて良い静けさを保っていた。
瞼を震わせ、ゆっくりと目を開く。
隣にセイの黒髪が見えた。
今日は僕が早く起きたようだ。


「…おはよう。」


微風にかき消されそうなほど小さな声で呟く。




ゆっくりと瞬きをした。




セイは起きそうにない。
ふと、昨日のことを思い出す。
















「ただいま。」


「ぉ…おかえり。」


たったの一言すらも突っ掛って出てこない。
すらすら言えれば何ともないというのに……。
僕が必要以上に意識し過ぎなのかな…?だって、セイは……まあ、素っ気ないけど、訊けばちゃんと答えてくれるし、どもったりしない。
ただ前のようなあの感じは無い。ただそれだけ。




「あ…もしかして、コンソメスープ作ったの?」


僕は頷く。


「そっか……。ご飯はもう食べた?」


「まだ。」


セイは持っていた鞄に手を突っ込みながら訊く。


「そっか、なら一緒食べよっか。ちょっと、荷物置いて来るから準備してて待ってて。」


セイは寝室の方へ歩いて行った。
僕はテーブルを拭いてから、スープを皿によそう。
スプーンとパンを机の上に置いて、サラダを大急ぎで作っているとセイが戻ってきた。心なしか疲れているようにも見える。
そう……。
急に痩せたからだと思う。初めて会ったあの時よりもかなり痩せた。
もともとそんな太っていた訳でもないから痩せたのそ姿はただ痛々しいだけだ。
その原因となったであろう、僕との不仲はいまだに続いているし……セイがいつか骨と皮になって死んでしまいそうでとてもこわい。
沈んだ気持ちのまま椅子に座って目の前のスープを眺める。
琥珀色の液体は、セイが作った時と色がほんの少し違う。同じ琥珀色だけど、違う琥珀色。気を抜いたら涙が零れてしまいそうだ。


「すばる…食べよっか。」


胸を締め付けられる微笑を浮かべた後、


「「いただきます。」」


久しぶりの2人そろっての食事だ。





さて、自分が作ったスープのお味はいかがなものだろう。
味見をしないで作ったものだから少し怖い。
ちらっと、セイを窺うとセイはスープを口に運んで………。


「………………。」


何も、言わなかった。
もしかして、不味かったのだろうか…。
恐る恐る自分の口元にスプーンを持っていくと……。




「……ぉいし。」


セイが小さく呟いた。




僕はそのまま固まる。








スプーンを持ち上げたままセイを見つめて…瞬きすら忘れてしまっていた。











「どうしたの…?すばる?コンソメスープ、上手に作れたね。美味しいよ。」


そう言って微笑んだ。
久しぶりに見たセイの笑顔。
き、れい……。




気がつくと、涙がぼろぼろと零れていた。




「せぇぃ……。」


僕はスプーンを放り出してセイとのほんの少しの距離を……。
椅子は床にひっくり返って抗議の音をたてる。
セイとの距離を……。
スプーンは机に跳ねて、床に落ちた。
距離をゼロにして…。







ぎゅっと抱きつく。




セイの温もり、セイの匂い、







僕が欲しかったもの。
















久、し、ぶ、り!!


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