星輝く空
28
セイは機嫌よく出掛けて行った。
今日は薬を売りに行くそうだ。帰りに美味しいものを買ってきてくれるって言ってセイは出掛けて行った。
お菓子か…とかなんとか呟きながらも笑顔で手を振って、名残惜しそうに家のドアを閉めて行った。
そんなセイを僕は笑顔で送り出し今日もお勉強に取り掛かる。
さて、今日は僕の苦手な計算だ。
苦手だと思っているから苦手なんだよとセイに言われたけどそんなことは無いと思う。苦手なものは苦手なんだ。
けど、やっぱりセイにそんなことを言われたから少し悔しくて最近はずっと計算のお勉強をしている。…うん。
最初よりは早く解けるようになったんだ。
がんばった甲斐はあったよ、うんうん。
すごい!よくやったね!って褒めて欲しいから僕はひたすら問題に取り掛かる。セイが宿題として出した問題は全部で20問。
けど、すでに……
「もーわかんない!むり、無理無理!なんでこんな大きい数字がぁー。」
今日から桁が増えている。
桁ぐらい……なんてことはない!!断じて!
と、言いたいところだけど……難しそうだし、ほんとに難しい。
「うぁー。何回やっても答えが…バラバラ………。」
どーしよ。
この問題とあの問題とその問題と……以下略。
まあ、8問ぐらいわからないものと3問ぐらい怪しいものがある。
って、結構多いな…。自分ですら心配になってくるほどわからない。
「ダメ、か…。」
唸っても解決しそうにないので僕は鉛筆を放り出して机に突っ伏す。
頭使いすぎた…。頭痛い。頭痛。頭痛が痛い…?
なんか違う……?
うぅー。
頭に靄が薄らとかかりはじめてなんだかぼんやりしてる。
眠くなっているのにも気づかずに机に突っ伏していると重くなりはじめた瞼がゆっくりと閉じる。
そのまま僕は寝てしまった。
白い部屋。
黒の神様。
僕は黒の神様の向かいに立っていた。
黒の神様は僕が生まれる前から黒の神様だったって聞いたことがある。
星よりも長い寿命。いや、寿命というものがそもそもないのかもしれない。
気の遠くなるような長い時をどうやって過ごしてきたのか……。
想像することができない程の長い長い時。そして、孤独。
きっと僕が持っている孤独なんてちっぽけなほど、些細なものに見える程、黒の神様の孤独は大きいだろう。孤独……それは、寂しさ。
残されるという寂しさ。
一体どれほどの友人とさよならしてきたのか……。
「すばる。」
黒の神様の声が空間に反響する。
「そんな顔をする必要はないよ。」
優しい響きの言葉。
「…そんなことよりも。すばる、少し話したいことがあるんだ。聞いてくれるかい?」
真剣な瞳が僕を射抜く。
僕は頷いた。
「あのね……。」
唾を飲み込む音が大きく聞こえる。
「大事な話なんだ……。」
う、うん。そ、それは雰囲気でなんとなくわかる、けど。
そんなに大切な話なのかな……?
「それが……その……。」
………?
「あの…」
うんん?
「…落としちゃったんだよね。」
「へ?」
「だから、落としちゃったんだ……。」
「あ、あの…何を……?」
「…すばるの願い。」
ん?
落とした?
願いを?
どういう意味…?
「いや、別に、すごいたた大変なこことじゃあああないんだけど…たぶん。」
「たぶん?」
「ああぁ。………うん。ごめんなさい。ちょいと昼寝してる間にどっかに転がっていっちゃったみたい、なんだ。」
みたい?!
というか転がるってどういうこと?!
「おー。なんというか……願いってほら形在るものじゃないでしょ。それが普通なんだけど…うーん、どう言うのかな…
それをどうにかこうにかして形にするんだ。まあ、それを収集するのが私の趣味なんだけど…。」
はあ。
「そう…いつの間にか、無くなっていたんだ。」
そう言ってがっくり項垂れた。
何回見ても思うけど、神様という感じじゃない。
ほんと人間らしい。無くしちゃうとことか、項垂れてるところとか、僕に謝っているところとか……。
全部ひっくるめてすごくいい神様だと思う。
いい神様、なんだけど…。
無くしたって何?!!
というか、無くしたらどうなるの?!
願いって大切なものじゃ…ないか…。
「今、探してるんだけどさ…見つからないし、全然見当もつかなくて…どーしよ。」
いやいやいや。どーしよ、は無いでしょ。
「お昼寝する前は確かにあったんだけどね…。」
「その……お昼寝していたところとかは落ちてなかったんですか?」
黒の神様は首を振ってしゃがみ込んでしまった。
相当落ち込んでいるんだろう。無言だ…。
「あの、ほんとに心当たり無いんですか?」
「……うん。」
…どーしよ。
「願いが無くなったら何か大変なことが起きたりとかは…?」
「……わからない。」
無言。
無言。
無言。
「…落ち込んでないでちゃんと探してくださいよ。」
「すばる…キミも言うようになったね…。」
曖昧に頷けば黒の神様はにんまり笑う。
よっこいしょ、と言って立ち上がりくるりと後ろを向いてしまう。僕からは背中しか見えない。
黒の神様は白いこの空間から浮き出ているように見える。黒い髪、黒い服、黒い靴。白と相いれないはずなのにこんなにも馴染んでいて、
こんなにもくっきり分かれている。
「すばる。」
「ひとつ、言っておくことがある。」
「…はい。」
まだ何かあるのかな…?
次回更新早いです!