星輝く空



29










「すばる。ひとつ、言っておくことがある。」


「…はい。」
まだ何かあるのかな…?











「まだ、終わってない。キミはもう全部解決したつもりなんだろうけれど…。まだ何も終わっていない。」


振り返り僕を真っ直ぐに見て言う。





「死ぬよ。」











白い部屋を黒い靄がどんどん覆っていく。黒い靄はさらに広がって僕たちを覆っていく。 段々と見えなくなる黒の神様だけを僕は見つめて先程の言葉の意味を考える。交わる視線は黒の神様が瞼を閉じることで一方的に切られる。


「…………。」
わからない。どういう意味なんだ。死ぬって誰が?
終わってないって…。
え?ええ?
靄は黒の神様を隠していく。気づいた時にはほとんど見えないくらいに覆われていた。


「!……あ、まっ!!」


黒い靄に飲み込まれていくのを僕は止めることもできずにただ呆然とする。
やがて、僕自身も黒い靄に飲み込まれていく。
遠のいていく意識をはっきりと自覚しながらもそれにあがらうこともせずに考える。黒の神様が言った言葉を。その意味を。
死、というものは決して軽いものなんかじゃない。一生に一度っきりの……。
星であった頃はそんなことは気になんてしたことなかった。ただ、あの長い時をどうやって過ごすのかだけが僕たちにとっては重要で、 ほんの一瞬で潰えていく人間の儚い一生なんぞ取り立てて気にすることでもなかった。あの頃は。けど、今は違う。 僕の寿命はどうなのかわからないけれど…けど、確実にセイの寿命は人間の生きられる長さまで、だ。 もしかしたら…それよりも短くなるかもしれない。
わからない。
僕が死ぬのならまだいい。
せめて……。
せめてセイだけは――――






黒い靄は闇になって全てを飲み込む。
白い部屋も黒の神様がいたこともアノ言葉も全部が嘘だったような気がする。
…そうだと思いたい。
けど。






意識を手放す直前にセイの無事を祈った。










死。
全てのものにおとずれるモノ。
セイにも例外なく僕にも。黒の神様は…わかんないけど。
死は別れ。生き続けていく者にとっても、死ぬ者にとっても。これまでとの最期の別れ。僕はその別れにたくさん立ち会ってきた。 けど、誰ひとり僕の友人でもなく親しい人でもなかった。僕はたくさんの死を見てきたけれど本当に死というものを感じたことがなかった。 ただいつの間にか消えていく存在だと……。
だから、僕には死というものを理解できていない。
もう、会えないということが
もう、話せないということが
もう、隣にいないということが
温かくない、悲しい、ということが
僕には理解できなかった。
理解しようと思ってなかった。いつだって僕はあの暗い闇から人々を見ていたというのに…。儚いものをたくさん目にしてきたというのに…。




死は人々を分かつ。





「だれ…。」
震える声で呟く。



「だれがしんじゃうの……。」
涙でぐしょぐしょの顔を拭って僕は考える。
終わっていない、という意味を。
死を。




黒の神様……どうか、どうか――――




無意識に祈る。
人々が僕に祈ったように。

















こつこつ


運命の足音が聞こえる


それは幸福の神の足音?


それとも


死神の足音だろうか?




















黒の神様…何を……


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