星輝く空
6
その日は一日中森を散策した。
そこにある木も花も虫も…全て、ぜーんぶ!僕にはとても素晴らしいものに映った。
きらきら流れる小川を見た時には飛び込もうとして慌ててセイに止められた。
もちろん、その後飛び込みの危険からなにやらいろいろお説教されたけどなんだかそれすらも楽しかった。
にこにこしてたからさらに怒られたけど…。
でも、セイの言う通り、体験学習はすごおーく大切で、すごおーく楽しいことだということがわかった。
かれこれ、一時間ほど寝れないのも胸のドキドキが収まらないからだろう。
明日も早く起きてセイの手伝いするつもりなのに……寝れない…。
ああ、明日寝坊するかもしれない…。
どうしよう。
目を閉じて、ひつじさんを数えても、途中から今日森で見たきれいなちょうちょさんとか、
かわいいお花さんだとかが浮かんできて…とてもじゃないけど眠れない。
困った。
何度目かの寝返りを打つ。
窓から漏れてくる月明かりに誘われるように僕はベッドを抜け出す。
薄いカーテンを開いて、窓の鍵を外す。
真ん中から二つに分かれて外へ開く窓を押し開ければ、夜風が室内に忍び込んできた。
少し肌寒く感じたが、夜空の美しさに心奪われた僕はただただ夜空を見上げる。
明るく輝く月。
瞬く星。
どれも届きそうで届かない。
えいっと手を伸ばすけれど、指先にすら触れやしない。
当たり前だけど…わかっていたけど…。
僕がいたあの場所とここはすごく遠い。
こんなにも近くに見えているのに…とてもとても遠い。
星の兄弟たちは元気にしてるかな?
今日も地上を見下ろして、おしゃべりをしているのかもしれない。
いつものように。
僕がここ――地上から見上げているのを兄弟たちは見えてないだろうな。
本当に、人間は小さい。この地球でさえ宇宙から見ればうんと小さいのに…その地球を広大だと感じられるほど、人間は小さい。
小さくて、消えてしまいそうな星のようだけれど…輝きは何にも劣らない。
そのちいさな体にたくさんの「輝くもの」を詰め込んで、星とは比べることすら意味のない…その一瞬の命。
新しい芽をあの森で見た。
美しい風景をこの目で見た。
躍動する命を持つ動物たちに出逢った。
瞬く間に生まれ、消える命。
僕は感じた。
儚いもの。
美しいもの。
僕がいたあの場所では一生出会えないもの。
暗く、あたたかいあの闇の中では感じることの無かった自分の鼓動。
どきどきして、苦しくて、安心する、その音。
ああ、きれいだな。
今夜はとてもじゃないが眠れそうにない。
どきどきが収まらなくて、初めての―――僕の―――。
ほら、囁いている。
黒の神様。
星たちに語りかける声。
それは、兄弟の無事を知らせる声。
空間の違いなど神様には関係ないのかもしれない。
兄弟たちには安堵の声が広がる。
それも知らず、僕は兄弟たちを見つめていた。
夜風が頬を撫でて髪を揺らす。
澄んだ空気。
☆
朝は気づけばやってきてる。
朝が来る瞬間を見たことが無い。
僕は、寝坊した。
いつもなら朝食も食べ終わっているはずの頃に僕はようやく起きた。
太陽の位置がいつもと違うことに気づいて、そのまま僕はベッドから落っこちた。
頭から落ちた。
「すばる!!」
ドアが大きな音を立てて開いた。
と、同時にセイが部屋に飛び込んできた。
セイ、どうしたんだろ?何かすごいことがあったのかな?
ベッドから落ちてそのままの体勢だった僕は打ちつけて痛む額を擦りながら涙目でセイを見上げた。
セイが真っ直ぐに僕を見ている。
僕もセイを見つめる。
セイの瞳の奥に引き込まれそうな感じがして、僕は自然と前のめりになった。
セイの瞳はもちろん、髪も、すっと通った鼻筋もきれいで……いつまでも見ていたいようなそんな気分になる、ような…どうだろう………。
うん、セイはほんときれいで、かっこいい!
「すばる?」
セイ、なんだか心配してる…?
本当に何かあったのかもしれない。
よし!僕がきいてあげるもんね!!
「セイ!ねぇ、どうしたの??」
できるだけ明るく尋ねた。
セイは大きくため息を吐いた。
僕は首を傾げる。
セイ…疲れたのかな?
「セイぃ…大丈夫?」
セイの顔を覗き込み、顔色を確認する。うん。顔色は悪くない。
それじゃあ…
「すばる…。」
「ん?なに?」
「心配してるのこっちの方なんだけど…。ベッドから落ちて大丈夫だった?」
苦笑い。最近覚えた言葉。セイは苦笑い、して僕に尋ねている。
苦笑い―――。
あっ
僕はそこでやっと自分が勘違いしていることに気づいた。
うー。はずかしぃ。
「……だいじょうぶ。」
聞こえるかどうか怪しいほどの小さな声で返事する。
俯いているけれど…セイの視線が痛い。
ああ、僕は何を…セイ、怒ってるよね?
僕、勉強してるのに、ばかだから。はんせい…反省、しなきゃ。
僕、まず、朝寝坊した…ベッドから落ちて―――。
ううう。
どうして僕はほんとなにも…できてない、な。
もっと、セイみたいにうまくできるようにならなくちゃ!
そしたら、セイも喜んでくれるし…僕もそしたらうれしい。
でも、どうやったら―――――――
口を尖らせて考え事をしている僕をセイが穏やかな目で眺めていた。
そんなセイに僕は気づかず、僕は猛反省していた。
ゆっくりとセイの腕が伸びる。
優しく頭を撫でられた。
「すばるが怪我していないなら良かった。」
低く優しい響き。
僕の頭がその言葉を理解できて顔を上げた時にはセイはいなかった。
代わりに、台所から音がする。あと、いい匂いも。
こんそめすうぷ………。
セイの呼ぶ声が聞こえて僕はとなりの部屋に飛び込んだ。
台所との間のドアにぶつかることも、もちろん忘れずに。