星輝く空
8
セイは優しい。その優しさに僕はただすがっていたんじゃないのか…?
初めて会えた人間に、僕はなにをそんなに期待していたのだろうか…僕は、人間だけど人間じゃない。黒の神様……僕……苦しいよ。
どうせなら、本当に人間になれたなら良かったのに。黒の神様……言ったよね…
僕は人間の形はしているけれど、中身はまだ、「星」なんだって…。寿命も、僕というすべてあの…暗闇の中にいたときと同じなんだって。
結局、今の僕は星でも人間でもない、半端なモノ。
僕、とても胸が苦しいんだ。
もう呼吸ができそうにないほど。僕はセイと一緒が苦しい…。
枕が冷たく湿っていた。
顔も涙と鼻水でカピカピしてて気持ち悪い。
辺りは真っ暗。月の弱い光が部屋に差し込む。
僕の心は壊れてしまいそう。
静寂が僕の心の穴を無理やり広げてる。
涙が止まらない。
そっと、冷たい床に足を下ろす。
ひんやりと僕を拒んでいるような…そんな気がする。みっともない声が漏れないように唇を噛み締めながらゆっくりと立ち上がった。
ベッドに眠ったセイ…髪が顔にかかって神秘的な美しさが……ほんとにきれい。
僕は何故か唐突にセイと一緒にいられないと思った。
苦しくて苦しくて僕が逃げたいから…だけじゃない。セイと一緒にいる未来が全く想像できないんだ…。
いつか、近いうちにいつか…僕はセイと引き離されてしまう…そんなふうに思ってしまった。
そんなことは嫌なのに…。セイとここでずっと暮らしていたいのに。
それができないようなそんな気がして…僕は恐怖に身をすくめる。
考えている間、セイを穴が開く程見つめていた。
なんだかそうしなくちゃいけないようで…。
微かに僕を呼ぶ声がした。
いつまでもこうしてセイを見つめていたいけど時間切れ。
名残惜しいまま僕は背を向けて歩き出す。
静かな夜には床板の軋む音さえ大きく聞こえる。
部屋を出るとき、一度ベッドの方を振り返った。
きれいなセイが眠っている。
胸が苦しくて涙が溢れる。でも、その理由がわからない。
静かにドアを閉めた。
もう、わからない。僕には…わからない…。
混乱した頭を抱え外へ飛び出す。
素足に草が気持ちいい。
ぽたぽたと落ちる涙をそのままに頭を抱えたままその場に座り込む。
「すばる…君は………いいや、なんでもない…。元気にしていたかい?」
黒の神様は困ったように言う。
「…こんばんは。黒の神様、久しぶりです。はい………元気にしていました。」
僕は涙声で答えた。これじゃあ、元気じゃないのはすぐに分かるんだろうな。でも、いつものような答え方ができなかった。
俯いたままの僕に黒の神様はおどおどしている。
ほんと人間みたいだ。
僕はわらった。
「あは、ははは、あはははっはっは……ぼく、ほんと、ばかだな…。」
黒の神様が息をのむ気配が伝わってきた。
「ぼく、ほしのくせに…じぶんのねがい…っすら、うっ…かなえられ、なくて…そのくせ……かなっても、
うまくで、うぅ、きない、し…セイ…きっと、ぼくの……こと…………き、らい。」
ぼたぼた涙をこぼして、みっともなく僕は泣きじゃくる。
苦しくて、苦しくて、僕は泣くことしかできなくて…目の前に黒の神様がいることも忘れて泣いた。
ずっと、ずうーっとゴメンナサイと呟きながら声が掠れてでなくなるまで泣き続けた。
泣き終われば、そのまま死ねるんじゃないかと思ったんだ。
僕は身勝手だ。
「じしょ」でしらべなくてもわかる。
セイ…ごめんなさい。
僕はセイが考えているみたいな人間じゃないんだ―――。
☆
今にも空が白みそうになったとき、黒の神様は口を開いた。
「すばる。苦しいかい?つらいかい…?」
こっくりとうなずいた。
「じゃあ、どうして苦しいのか…つらいのか…考えてみたのかい?」
首を横に振る。考えたわけじゃ…たぶん…ない。
僕の勝手な願い。セイと一緒にいたいという。
そして、勝手な妄想。
「それじゃあ、すばるはこの苦しみをどうしたいの?」
僕は……どう、したいんだ…?
首を傾げた。
考えたことがなかった。
いつも、ただ苦しくて、つらくて、逃げたかった…だけだった。
僕は卑怯…?
あの場所からも逃げてきたのにまた逃げるの?
今度はどこへ?
どこにも逃げられないのに……僕はどこへ行こうとしているんだ?
いつまで現実を拒否するつもりなんだ?
僕はどうしたいんだ?
答えが見つからなくて黒の神様を見る。
「だめだよ。それは、自分で考えなくちゃ。例え…どんなに苦しくても…自分で考えるんだ。そうしなくちゃ…だめだよ。」
苦しそうに言う。
「考えて、考えて、どんなに無理だと思っても考えるんだ。答えが出ようが出まいが…君はこの問題を考える義務がある。
この状況は……君が望んだものなんだから…。」
僕は黒の神様を見つめる。今の言葉を忘れないように唇を噛み締める。
痛みなんかわからなかった。
「すばる…。君にはチャンスを与えよう。いや、このチャンスも…………そんなことはどうでもいいか…取り敢えず、君に時間をやろう。
考える時間を。よーく考えてごらん…きっと君なら答えが見つかる。」
黒の神様はしゃがんで僕と目の高さを合わせる。
黒い瞳に僕が映る。
「苦しくても逃げてはいけないよ。」
そう…言って…僕の頭を撫で…た。
僕は頷くことしかできなかった。
「ほら、お行き。彼がそろそろ起きてしまうよ。」
手首を掴まれ立たされる。そのまま背中を押されて無理やり家の中に押し入れられた。背後から囁かれる。
「自分の気持ちに正直にね。」
どういう意味かと尋ねようと後ろを振り返るとそこにはいつもの風景があるだけ。いつのまにいなくなったんだ………。
僕は、考えることにした。
その答えがたとえどんなに悲しい答えでも。
朝日が差し込む瞬間、軋んだ音を立ててドアが閉まった。
わかってる。
セイ…………。
僕はもう逃げない。たぶん。