雨の日の憂鬱



雨の日は憂鬱だ。何しろ良い事がない…というよりも、悪い事しかない。
アンラッキーでもなく、どちらかというとバットデー。この世で一番運の悪い神様が僕に始終付き纏っていない限り、 こんなに…こんなに、運が悪いなんてありえない!ほんと…別に好きでやっている訳じゃないから宿命ってところなのだろう。 それは仕方ないさ……晴れるのを願うだけだな、うん。
と、いつも通りの長い長い無駄な事を考えていた。だから、気づかなかった……………………背後から忍び寄る影に。 その影はそっと近づいて来て…そっと僕の右耳にふっ…と、息を……。


「ぬわあぁぁあ!!!」
こんな事をするのはヤツしかいない。
同じクラスの高崎陽菜士(タカサキ ヒナシ)だっ!
ゆっくり振り返ると、彼のにんまり顔が…見たくないけど見えた。
「オレの前で油断するなんてお前らしくないじゃん。まっ…久しぶりに『耳にふー攻撃!!』ができたから楽しめたぜ!」
「陽菜士………」
僕の席は主人公とやらが座っていそうな窓側の尚且つ、一番後ろの席だ。
そこからは、窓の外がよく見える。校門も、校庭も、運動場も、もちろん空も。
今日は窓ガラスに水がたくさん打ちつけている日だ。
「お〜今日も雨じゃん。って、もう梅雨入りしたのか!あっちゃー忘れとったわ。……すまんすまん。 こんな弱っているときに『耳にふー攻撃!!』をするなんてフェアじゃない!!」
「攻撃名……ダサい。つーか、気持ち悪いからやるなよ。」


そう言って席を立つ……転んだ。


思いっきり派手に音をたてて、隣の陽菜士の机に頭を打った。
痛い……。


「んぎゃ〜!!大丈夫か!?おい………ち、ちちちち、血!あ゛〜どうししよう、 血が出てるよ血が出てるよ死んじゃうよ死んじゃうよ死んじゃうぅ〜。」


「勝手に殺すな。」


とは、言ったものの…マジで痛い。額が切れて血が止まらない。頭の中を掻き回されたみたいで気持ち悪い。吐きそうだ。
あれ?なんか陽菜士がちゃんと見えない…?おかしいな…霞んでる………。
陽菜士、そんなに慌ててどうしたんだ。別にこれくらいどうってことは、無い……よ………………。




□■


真っ白な天井に、見覚えのある緑のカーテン。僕の上には布団、僕の下にはベッド。 右隣に窓。ああ、やっと雨が上がったようだ。久しぶりに青空を見たような気がする。
大惨事になる前に神様は機嫌を直してくれたらしい。


がらがら、と小さく引き戸の開く音がした。
見なくてもわかるが…とりあえず、ドアの方を見る。後からシカトだ!なんて言われたら面倒だからな。いや、ウザイの間違いか…。
とぼとぼと近くまで歩いてくる。俯いているのは、たぶん、心配してるからじゃない。
隣まで来ると、置いてあった椅子に腰を下ろす。
突然顔を上げ僕を見る。揺れている瞳……期待はしない方がいい。
僕は陽菜士をじっと観察する。




空気が固まったかと思われた頃、ヤツは口を開いた。







「ごめんなさい……というとでも思ったかぁ!!!」




すぱんっ!!
ヤツの頭はいい音を立てた。


「んなぁー!!お前…このオレを病院送りにする気か!」


コイツは間違っている。だから、言ってやろうではないか。


「いやあ、その頭じゃ現代の医療技術でも治らなさそうだからさ、原始的な方法なら治るかなーと。」
棒読み。するつもりじゃなかった、よ(笑)


「馬鹿にするな…………悪かったと思ってるよ…謝罪に、個室にしたしさ…………す、すまねぇ。」
明らかに笑っている。
「お前…ここ、保健室だろ。何が個室だ!なんですげー頑張ったみたいな話になってるんだ。しかも自分で言ったことで笑うなよ。」
彼のニタニタ顔があまりにもムカついたからほっぺたを抓ってやった。
「何すんだよぉ!!」
目に涙を浮かべて、怒鳴られた。
けど…迫力は無に等しい。


「お前の泣きそうな顔見るとスッキリするな〜。」










泣いた。




「えっ!?お…あ〜の冗談なんだけど。本気にした…?い、今のどう聞いても冗談だった気がするんだけど。」


やばっ…。


「うわぁーーん!こーちゃんがいじめるぅ!!」


「こーちゃんって言うな!!ヒナ!」


あーもう、面倒くさい。
何が何だかわからない。
正直、ウザイ……けど、妙に心地よい。
いつまで続くのだろうか…でも、最近少し楽しくなってきた。これもヒナ君のおかげだろう。 …と頬が緩んでしまった。いつの間にやら、陽菜士に完敗だな。
僕はニタニタしてるのにも気づかずに泣きべそをかいている陽菜士を眺めていた。







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