晴れの日の雨



2.




翌日。
僕は病院に行った。
早々と骨折は治ってしまったようだ。お蔭で医者に色々問い詰められてすごく面倒だった。今度陽菜士に会ったらタダじゃおかねぇ! と、この場に居ない陽菜士に心の中で文句を言ってやったところで、何故か不安になってきた。
今日は快晴。
…ということは、僕の不安は的中する。






不意に後ろから声を掛けられた。
あの人に―――


「あら?君は……昨日の不幸少年!まさか?!あの後もっと酷い目に遭ったとか?!ん〜、にしてはピンピンしてるし……あー、あれだ。 あれあれ、あーれ!布…包帯…ギブス!!ギブスが無いから、あれだ…………要は治ったんでしょ!!」


何故、僕が怒鳴られなきゃならないんだ。
あーあ、また会ってしまうとは…嫌だなぁ。
彼女には悪いが既に顔が笑顔を繕えない。


「えっと、昨日はごめんなさい。ちょっと血に興奮しちゃって…謎の発言してたでしょ。ほんとごめんね、ふふ。」



「……………。」



謝るのは怒鳴ったことじゃないんだね…。
それに、人の血を見て興奮しないでほしい。僕は痛かったってのに。 しかも…彼女は喋ってること全てが謎の発言だということに自分で気づいて…いないのだろう。同情はしたくないが、可哀想に…。
ふと、今日は「晴れの日の憂鬱」だと思った。





訊くところによると、彼女の名前は赤城梨雪(あかぎ りせつ)さん。年は僕よりも1つ下でしかも同じ学校だ。 それと、学校でかなりモテる……って自分で言っていた…。自称かよ!…ってツッコミはいれなかった。 彼女の顔は本気だったからね…夢を壊したくない親心?みたいな感じになっちゃって。
ああ………つい、現実逃避をしてしまった。


悲しいかな。


僕が現実逃避したことじゃぁなくて、僕の意思が弱いことが、ね。時々と言わず羨ましくなることがある…。 そう、ノー!と言える人がね。薄志弱行とは僕のことを指している言葉だと思う。まさしくその通り!文字通り!
と、いう現実逃避をしていたら…彼女からの鋭い視線が突き刺さってくる。


「ちょっと!何しているの!!早くしてよ。」
「嫌です。」



殴られた。



僕の間髪いれない素晴らしい即答などまるで無かったかのようにされてしまった。 ついでに言えば、彼女の睨みは宇宙人でさえも縮こまってしまうぐらいの危険な代物だ。それ故、僕の心臓は瀕死の事態に陥っている。 ここが病院だったのが幸いだろう。……って、心臓発作は…うん、やっぱ嫌だな。
そうそう、彼女は病気の母を見舞いに来たらしい……のだが、けど…何故だかさっきからとある病室の前でウロウロしている。 先程、耳打ちでこっそりと教えてくれたのだが(耳に息がかかってくすぐったかったし、何故コソコソしてるのかよくわかんなかったけど…) ……まあ、聞くところによると、昨日ケンカしたらしい。しかもすごくつまらないことで。 その「つまらないこと」がどんなことなのかは教えてくれなかったけど…。
でも、僕が思うにそんな大したケンカじゃない気がする…っていうか、毎度のことだけど彼女が大袈裟に捉えているだけだろう。 面倒だからさっさと仲直りさせて僕はおさらばしたいところだが……。
はは…現時点では無理そうだ。
彼女がこっちを物凄い形相で睨んでいる。


「あ、あの〜……ほ、ほんとにいいんですか…?」
「だからいいって言ったでしょう!!早くしなさいよ!何?それともわざと焦らしている訳…?」


「…イイエチガイマス。」



僕はそう言って深呼吸する。
視線を一度ずらし、勇気を振り絞ってまた戻せば少し不満そうな彼女の顔が見えた。て、いうか、なぜ……………?






何故?!!



待てよ…。
なんで僕がこんなことをしなきゃならないんだ…?
しかも、よりによって……。
頭が痛い。視界がおかしいぞ…?なんだか地面が揺れているような気がするんだが……。 はぁ…あーーーーもーーーー意味わかんねぇえ。マジでわからないし、わかりたくもない!
……そこまで運の悪い方ではないと思ってたのにな。
僕は、手伝って欲しいことがあるって言われたからまあ、やむを得なくついて来たというのに……。
これは、一体どういうことなんだ。
何故……彼女は……ぼ、僕にききき、きすをしろと…言った、んだ……?
間違え…ということでもなく…ほんとに。本当に。
キスしろって――――――


今すぐ頭を抱えて蹲りたい。それよりも一刻も早く家に帰って寝たい。寝て今のことを無かったことにしたい。
僕は現実を忘れて自分の不幸を呪っていた。だから…気がつかなかった。
彼女の行動に。









一旦切ります。次回、こーちゃんに思わぬ出来事が?!
あるかも、ないかもwww

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