月の寝る頃





 2.



登場人物紹介はありません;暴力表現、血、精神的に病んでいます。
苦手な方、影響を受けやすい方は回れ右でお願いします。閲覧後の保証はいたしておりませんのでご了承を!!









夜の空気は冷たい。
身を切るような冷たい風に暖かな感情は無い。
それは、俺も同じ。
さて、今日も捜しにいくか……。

ぶらぶらと、暗い道を歩く。切れかかった街灯が道の暗さをいっそう際立たせている。
くらい、くらい、くらいみち。
ひっそりと闇が覆って、寒々しい。



「…み、つけ、た。」
そこにはひとり、男が転がっていた。浮浪者みたいな恰好をした汚い男。
酒臭い。その上、泥酔のようだ。
「…サイアク。」
身じろぎもしない男に眉を顰める。
「――It's a show time.」
ぼそっと呟く。
誰もいない暗い道。俺は…どんな表情をしていたのだろうか?






                  ‡



ニュースのお姉さんが事件を坦々と喋っている。
猟奇殺人!犯人の正体は!?
そんなタイトルが画面の右上に表示されている。
「…それで、遺体が見るも無残――で、犯人は…」
解説員がなにか得意げに喋っている。
ふーん。結局そうなったんか…。まあ、どうでもいいか。
画面に映る風景はどこか現実味が無くて…まるで、どこか架空の世界のハナシ。
架空といえば……この現実もなんだかふわふわしてて現実味が無い。現実こそが空想で、空想こそが現実で。 仕舞いにはどっちがどっちか解らなくなって…。


ほんと、俺は…何考えてんだろ。


考えることに意味は無いのに。考えたところでどうにもならないのに。
ひとですらない俺にはこんなことどうでもいいのに。



「アア、メンドウダ。」




紡がれた言葉は固く濁ってた。







                  ‡



夢は見ない。
黒い何かに飲み込まれているだけ。身動きもできなくて、ただ苦しくて、ただ…。
きっと。
しぬんだ。

そう思っているのに、そう願っているのに…結局俺は目を開ける。
胸の辺りに穴があいたようで変な気分がする。
これから今日が始まるんだと思えば吐き気がする。
まだ…………まだ、俺はしねないのか。







あと3人。だが、厄介だ。
何がかって?そりゃもちろん、残りの3人がそれなりに仕事をしていて、尚且つ、裏の人間だということだ。 今まで通りじゃ、殺すどころか傷一つつける前に俺が消されてしまうってこと。
「う―ん。」
困ったな。めんどうだ。ほんと困ったどうしよう…。
まあ現実はどんなにうんうん唸ったところでどうにもならない。
………………………。
ちくたく、ちくたく。
ちくたく、ちくたく、ちくたく。

カチッ。

ちょうど午前1時。
ちくたく、ちくたく、ちくたく。
…寝てから考えるかぁ。
犬の遠吠えが聴こえる。静寂という音が俺を押し潰そうとする。すごく息苦しい、苦しいくるしい、くるしい、くるしい。
空っぽな俺の心を嘲笑っているかのようだ。
しにたい。
早く、家族に会いたい。
もう、ひとりは嫌なんだ。
はやく……逢いに逝きたいよ。
まだ…あと、3人残っている。
はやく、はやく…はや…く。









いつの間にか朝だ。

キコエルヨ。此処に居るよ。どこにでもいて、どこにもいない。
時間が俺を支配することはない。死が俺に降り掛かることはない。
円のようにぐるぐると、ぐるぐると廻り続けるだけ。
感情が……憎しみが、悲しみが…俺で、結局俺はなんにでもなくて。
此処にいるのに…誰も気づかない、そんな気がして、零れる涙の意味さえ知らない。



鳥が喜びの唄を歌っている。


黒い感情だけが俺にはあって、この感情の存在の意味が無くなれば、俺も無くなる。
無くなる。
それは、一般的には悲しく、辛く、絶望的なもの。
だけど俺には、嬉しく、喜ばしいこと。
期待に胸が高まって、考えるだけでも……。
口元が緩む。



朝には絶望しかない。
ああ、今日が始まってしまうんだ。
さっさと、作戦を練らなくちゃ。
焦ってはいけない、確実に狙わなくちゃいけない。
失敗などあってはならない。


どうして…。
そう考えるだけ無駄だ。
無駄無駄無駄、無駄!
ムダで無駄でドウシヨウモナイ。
みんな俺を嘲笑っている。
この死にぞこないが、ってね。
もしかして……なにも気づいていないのは…俺なのか?


今日こそ仕留める。
誓ったところで俺には意味を成さないがつい誓うようにしてしまう。

ほら、みてよ……アイツまだ居たんだ。
突き刺さる視線。
もし、心があるのなら…何故失血死しないんだろう。
早く、しねしねしねしね。
だれでもいいからおれをころせよ。


引き千切られたカーテンの残骸がかろうじて朝日を遮る。
散乱した室内で、散乱した記憶を掻き集める。

まあ、あの子…生き残ったのね可哀想、さっさと死ねば苦しくなかったのにね。
近所のおばさん。
いつも優しかったのに…。
おや、あの子が生き残ったのかい?そりゃあ残念だ。親も恥を置いて逝くとは可哀想に。
遊んでくれた優しいおじいちゃん。

俺を痛めつける言葉。
抉るのは肉体じゃない。



「もう…や、めて…くれ。」
朝日が照らす。
醜い俺を。汚い過去を。
散らばった記憶を片付ける。箱に仕舞って鍵を掛ける。

サイアクだ。

今日は部屋から一歩も出れそうにない。













誰しも、つらい記憶はある、と思う。
世界中の人にアンケートを取ったわけではないから確かなことは言えないけれど。
誰が一番不幸な人間で、誰が一番幸福な人間かなんて……決まってない。
決まっていたならば楽だったのか?
そんなことは…たぶん…無い筈、だ。




「――――様……が、…………。」

ようやくお出ましのようだ。
しかし…遠くて聞き取れないなぁ。

「……ですが!―――――――はぃ。……ぁ…。」

う〜ん。
聞こえないなぁ。
困ったこまった。全くの無表情で微かに呟く。




「そこにいるのは誰だ!!」


鋭い一言が空間を切り裂く。

静寂。





あ。
もしかして、バレた?

残念だなあ。

もう少し見学していたかったのに…。




何故か無性に笑いたくなってきたが、今は堪える。


「何か用かな?」

平坦な声で問いかけた。
俺……もうダメ、笑いそう。

「用があるのはオマエの方だろうが!!」

ずいぶんと嫌われてしまったようだ。



あは。


「あは、あはは。あはははははははははは!!!!」

あぁ、可笑しい、可笑しい。
ホント滑稽だ、馬鹿らしい、嘘くさい、何を気取ってんだか。
阿呆なんじゃないの、イカレてんじゃないの。
ああ、イカレてんのは俺か。







ほんと、しねばいいのに。







隠れていたところから出て姿を現す。

ねぇ、俺はどんな顔してる?






















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