月の寝る頃 |
4. 登場人物紹介はありません;暴力表現、血、精神的に病んでいます。 苦手な方、影響を受けやすい方は回れ右でお願いします。閲覧後の保証はいたしておりませんのでご了承を!! 目を開ける。 汚い部屋が視界に映る。俺の部屋……今日は比較的綺麗だ。 あくまで比較的、だが。 大概、ターゲットを片付けた次の日の朝は部屋が物凄く散乱している。 前の前はカーテンがズタズタだった。 あの時は朝日が眩しくて起きたんだっけ…。 まあ…今もそのままだから眩しいことには変わりないのだが…以外にも慣れるもんだ。 起き上がろうとして、体の上に何か重しが乗っていることに気がつく。 んん? 固いような…柔らかいような…? うつ伏せで床に寝ていたものだから背中に乗った重しが一体何なのか全く分からない。 手を後ろに回してそれが何なのか確かめる。 冷たい…滑らかな毛皮………ん…以外に大きい……固い…というより、 鋭いのが…………あと、獣臭い…………あぁーーーーーーーやっちまった、か。 「どっこいしょ!」 ごろん…ではなく、ドサッと床に落ちたのは――――犬の死体。 シェパードかな?? あー、違うか…。 何で犬の死体がここにあるんだ?―――で、いいか。 なら、普通だろ、普通。 にしても…犬、の死体、ね。 めんどくさいなぁ。これ何ゴミだよ。 臭いから生ごみ? いや…デカイから粗大ごみかもしれない…。 いやいや待てよ。その前に犬の死体はゴミに出していいのか? うーん。 わかんない。 んーめんどうだな…。 とりあえず、そのまま死体を転がしておいて…飯…飯にするか。 昨日はたくさん動いたし、お腹すいたよ。 食べれるもの…あるかな? あーたぶん無いな…買い物に行ったのずいぶんと前だし。あるとしたら…カビに襲われた食材だけだ。それは食べたくないし……。 取り敢えず、何か探してみるか…運よく何か食べれそうなものがあるかもしれないし。 死臭が充満する室内で俺はあらゆるものをひっくり返して食べ物を探した。 結果、無し。 無残にもカビの生えたものすら無く…買い置きしていた筈の水も無かった。 しかし…無いと欲しくなるものである。 「買いに行くか…。」 俺の口が勝手にそう言ったため俺は食材その他諸々を買いに行くことになった。 自分でそう決めたのだけれど…。 ベッドの隙間にねじ込まれていた五千円札をポケットに入れて部屋を出る。 鍵を掛ける趣味は無い。 ああそういえば、犬の死体…どうすればいいんだ…? ‡ 近くのコンビニまで歩いて15分。 何か考え事をするにはちょうど良い距離だ。と言っても、俺は特に考えることはないがな。 考えるとすれば……監視カメラ対策…? そんなわざわざ面倒なことはしないが……そろそろ考えた方がいいのかもしれない。 ボロボロの靴が視界で煩く動いている。地面が緩やかに流れ去っていて視界の端に消えていく。言わなくともわかるだろうが俺は歩いている。 右脚、左脚、右脚、左脚、右脚………何回動かせば目的地まで辿り着けるのだろうか。 何回…何回…何回…俺は――――。 視界に映るのは赤い血。真っ赤な血。濃い赤が視界の大半。 それは誰の血?俺の血?母さんの?父さんの? それとも、目の前の男のものだろうか? 靄がかかったかのようにうまく思考ができない。 痛いのか、痛くないのか……わかるのはただ一つ。 心にあいた大きな穴。 心はあるのかわからないのに…何故だかそう思ったんだ。 男が汚く笑って俺を刺す。血が溢れて、溢れて。 虚ろな瞳で俺が見たものは何だったのか――何も思い出せない。 時々、頭の中を過ぎる光景は昔のことばかり。 歩いているときも、寝ているときも、殺しているときも。 突然に思い出す。普段思い出そうとしても物凄く曖昧でしかないものがふとした瞬間に鮮明に浮かび上がってきて…。そう、そうなんだ。 頭を振ってその風景を追い出す。 もう到着するから……思いつめたような顔で誰もコンビニなんて入らないだろうから……。 唇を噛み締める。ブチッと嫌な音。 唇を噛み切ったところでどうせ逃げられやしないのに……痛みはあの光景を消すどころかくっきりと焼き付けて……痛い。 痛くて痛くて堪らない。鉄の味が俺を狂わせる。壊れた俺が狂ったところで今更なことなんだろうけど……俺は壊れたままでいたい。 あの時のまま。何ひとつ変わることなく。 サイレンの音。耳障り。辛うじてできている呼吸の音も耳障り。 大声で怒鳴っている誰かの声も耳障り。そして、何よりも…自分の心臓の音が耳障り。 もう、耳を塞いで、何も考えないで、俺は、俺が、俺だけが、どうして呼吸しているんだ? 俺を運ぶ大きな手を拒絶して家族の許へ。 ああ、死んでいるじゃないか。 溜息を吐く。 コンビニは目の前だ。あと数歩歩けば店内に入れるほどの距離で立ち止まっていた。 再び溜息を吐く。 白を基調としたコンビニはとても綺麗で清潔感がある。 頭の中の赤い風景が目の前のコンビニの白さに勝っている。白を赤く染めたいような…そんな衝動が湧きあがってくる。 白はまるで偽善のように微笑んでいる。 顔を顰めて自動ドアをくぐればいつもの、どこにでもあるコンビニの景色だ。 カゴを手に取って必要な物を放り込んでいく。 客は俺一人。 店員はのろのろと商品を並べて時間を潰しているようだ。 まあ、ここのコンビニはいつ来てもこんな感じだ。ポジティブに考えればゆったりとした心地いい空間を作り出しているコンビニ……と、 言えなくもない。言わないだろうがな。 俺はカゴの三分の二ほど商品を詰め込んでレジに向かう。食糧と水、菓子、その他。 特に買い忘れは無さそうだ。 店員はメンドクサイと顔に書いたままレジへとぼとぼ歩いてくる。残念ながら商品の陳列はまだ終わっていないようだった。 下…床にいくつか置いてある。んー、あれはきっとマニュアルにそうしろとは書いてない筈だ。 面倒くさそうに会計すると、小さな声でありがとうございましたと言って棚の間に消えた。 長居は無用だ。 再び自動ドアをくぐって俺は歩き出す。 どこに向かうのか、どうしようか、そんなものは頭の片隅に転がっていて拾い上げる予定もない。 家路をゆっくり帰る。あの犬の死体が待つ家へ。 時々思う―――――俺が帰るべき家は存在しているのか、と。 コンビニは好きだ。レジの隣のガラスケースの中が魅力的。 |